それを聞いて、俺はしばらく黙り込んでしまった。
 川内は、少しの間俺を見て、そしてまた俯いてしまう。膝の上の手が、震えていた。

「えーと」

 植物の言葉がわかる?
 つまり、一方的に話し掛けているのではなく、会話をしていた、ということか?

 そりゃあ、マンガやアニメではそういう設定はよくある。もしかしたら、どこかにそういう人がいるのかもしれない、と思うこともある。

 けれど目の前の川内がそうなのだ、と言われても、現実感は伴わない。

 自分が今どう受け止めているのか、よく、わからなかった。

「あの、正直、すぐに信じられるかと言われたらわからんのんじゃけど」

 その言葉に、川内の肩が揺れる。
 でもここで、「そうなんだ、信じるよ」と適当なことを返すのも違うだろう、という気がしたのだ。

「えっと、言葉がわかるって……日本語?」

 だからといってこの質問はどうなんだろう、と思わないでもなかったが、そう口から滑り落ちた。
 川内は、ぱっと顔を上げた。ちょっと驚いている様子だった。

「日本語のことも……ある」
「そうじゃないときは、何語?」
「あ、たいていは言葉じゃなくて、なんとなく」
「なんとなく……」
「動物でも、怒っとるとか、寂しいとか、しゃべらんでもわかる、みたいな、そんなの」
「ああ、なるほど」
「日本語なのは、大きな木とか」
「ああ!」

 俺は手を叩いた。
 ふいに入学式のときのことを思い出したのだ。

「じゃあ、体育館の横の桜は日本語なんだ!」

 その言葉に、川内は大きく目を見開いた。

「あっ、うん、そう」
「入学式のとき、散ってた!」
「うん」

 川内は嬉しそうに、こくこくとうなずいた。

「ああ、それ、俺、見てた」
「そうなん……?」

 俺の言葉に、川内は不安そうに眉尻を下げる。

「うん、バーッと桜が散って、ほいでお辞儀してた」
「あ……」

 川内は、両手で口元を隠して頬を染めていた。気付かれていたのは恥ずかしいという感じか。

「おめでとう、言われたけえ……」

 完全に信じたわけじゃない。やっぱりどこか、そんな浮世離れした話が本当に現実にあるのだろうか、と思う気持ちもある。
 嘘をついているとは言わないが、思い込みなんじゃないのかな、とどこか疑ってもいる。

 けれど、UFOだって存在しているのかもしれない。宇宙人だっているのかもしれない。
 だったら、植物と話ができる人間もいるのかもしれない、と思ってもいいのかもしれない。

 川内は口元に置いていた両手をまた膝の上に戻して、そして言った。

「前に、木下くんがUFO見たって言ったとき」

 今まさに考えていたことを言われて、少し驚く。俺は植物じゃないんだけど、なんてアホなことを思った。

「神崎くんは宇宙人がいるかもしれないって言いよったけえ、そんな風に信じてくれたらいいなって、ずっと思いよったんじゃ」

 川内は、どこか辛そうに、そう言った。