今現在、三人しかいない園芸部で、川内にだけ隠し事をするだなんて、できる気がしない。

「ほうよのう、川内だけに隠すって、おかしいよのう」

 そう言って木下はため息をつく。

「千夏には事後承諾じゃが、ええか、もう」

 覚悟を決めたかのように、木下は顔を上げた。
 川内はこちらに向かって歩いてくる。

「どしたん? 先生が、車に戻っとけ言いよったよ?」

 俺たちの前に立つと、川内は首を傾げてそう言う。

 覚悟は決めたのだろうが、やはり勇気は必要なようで、木下は顔を真っ赤にしながらぎゅっと両手を握りしめている。
 わざわざ口にするのは気恥ずかしい、という気持ちはわからないでもない。

「あ、あのの、川内」
「うん?」

 なにが始まるのかと思っているのだろうか、川内はきょとんとした表情をして、木下を見つめている。

「あの……尾崎……なんじゃが」
「うん」
「あの……それが……あの……」
「うん」
「あの……ワシと尾崎の……」
「うん」

 俺はそれを「がんばれー」という、父親だか兄だかのような気持ちで、隣で見ていた。

「ワシら……付き合うことになった」

 やっとのことでそう言って、木下は、ふう、と息を吐きだした。

「うん、よかったね」

 にっこりと笑って、川内が応える。
 うん?

 驚いた様子もなにもない。これは。
 逆に木下が驚いたように、川内に訊く。

「……知っとる?」
「うん」

 川内は、こくりとうなずく。

「千夏ちゃんから聞いた」
「なんじゃ、あいつー! 自分は言うな言うたくせにー!」

 ホームセンター内に、木下の叫びが響き渡った。
 それを慌てたように静止しながら、川内が続ける。

「あ、千夏ちゃん、木下くんも勝手にしゃべったからいいんだって……」
「はあ? ワシは今、初めて言うたで? なんの話じゃ」

 眉根をひそめてそんなことを言っている。

「あ!」

 思わず、そんな声が出た。
 俺には、心当たりが一つ、あった。
 たぶん、尾崎の家庭の事情を木下から俺が聞いてしまったことを言っているのだ。

 俺の声に、ものすごい勢いで振り返ってきた木下が、こちらに顔を近付ける。

「あ、てなんじゃ!」
「いや、尾崎の家庭の……」
「あれ内緒じゃ言うたろー!」

 そう言って頭を抱えている。さすがに、人に言うのはまずいとは思っていたらしい。
 俺は慌てて顔の前でブンブンと手を振った。

「いや、言うたわけじゃない。尾崎が勝手に悟ったんじゃ」
「同じことじゃー!」
「静かにせえ!」

 わーわーと騒ぐ俺たちの声を、いつの間にかやってきた浦辺先生の一喝が止める。

「お前ら、なにを騒ぎよるんじゃ! 迷惑じゃろうが!」

 一瞬にして、ホームセンター内がしん、となった。
 パラパラといる他の人の視線が、こちらに突き刺さる。
 俺たちはしゅんとして肩を落とすしかない。

「とにかく車に帰るで!」

 トボトボと、大股で歩く浦辺先生の後をついていく。

 「すみません」「お騒がせしました」と頭を下げながら歩く先生の後を、同じように俺たちも頭を下げながら行く。

 店を出て車の傍に着いたところで、先生は腰に手を当てた。車の傍には会計を済ませた商品が乗ったカートがあった。
 先生は顎をしゃくる。

「ほれ、トランクに乗せられるだけ乗せえ。乗らんかったら、お前らで抱け」
「はい……」

 俺たちは粛々と、先生の言う通り、トランクに荷物を乗せ、カートを片付け、そして車に乗り込む。

 学校に帰る途中の車内は、浦辺先生の独壇場だった。

「まったく……制服で迷惑行為なんかもっての外じゃ。他の人にどう見られとるんか考えてみいや。制服を着とるいうことは、学校の代表と同じことで。お前らが悪いことをしたら、山ノ神はそういう高校じゃ思われるんで。わかっとるんか。あと、お前らええ加減に敬語を覚ええや。進学するんでも就職するんでも、面接はどうするつもりなんじゃ。だいたいお前らはのう」

 学校に帰るまで、そのぐうの音も出ない説教は、延々と続いたのだった。