そうしているうち、大きなカートに山盛りの商品を詰め込んだ浦辺先生が、種のコーナーにやってきた。

「決まったか?」
「先生、これー」

 サボテンの種の袋を見せると、浦辺先生は覗き込むように顔を近付けたあと、顎に手を当ててニヤリと笑った。

「なるほどのう」
「あの、サボテン用の土、買ってもいいですか。あと、植木鉢も」
「ええで。乗せえや」

 そう言って、カートを指差す。ほっとしたように笑った川内は、いくつかの種の袋をカートに入れたあと、パタパタと植木鉢を見に行った。

 残った俺たちは、種の袋をカートに入れるついでに、その中身を覗き込む。
 大きな袋に入った土が何袋もある。それから支柱になる棒やら紐やらビニールやらが無造作に突っ込んであった。

 そして端っこに、何個もの苗があった。黒いビニールの小さな植木鉢のようなものに植えられている。あれだけ、種から種からって言っていたのに、どういうわけだろう。

「これ、なんの苗?」

 苗が生えているポットを指差して尋ねると、浦辺先生は呆れたように言った。

「なんじゃ、葉っぱ見てわからんのんか。やっぱり現代っ子じゃのう。見てみい」

 その黒いポットに、札が刺さっている。それを見てみると。

「……ナス?」
「こっちはピーマンじゃ」
「せっかく畑を耕したんじゃ、ネギだけいうのものう。ついでにこっちも植えとけ。夏休みには収穫できるじゃろ。そしたら、これでバーベキューでもやるで」

 心なしか弾んだような声に、顔を上げる。

「えっ! ホンマに!」
「……野菜だけ?」

 バーベキューという言葉には心躍るものはある。しかし、野菜だけのバーベキュー。それはなんだか物悲しい。
 けれど浦辺先生は言った。

「そんときは、肉も買うてやるわ」
「やったー!」

 二人揃って思わずそんな声が出て、イエーイ、と両手でハイタッチする。

「楽しみもないとのう。いっつも畑耕すだけじゃと、つまらんじゃろ」

 俺たちを見て、苦笑しながら浦辺先生が言う。

「その代わり、夏休みも交代でええけえ、通って世話するんで?」

 その言葉に、俺たちはコクコクとうなずく。

「わかった、やる」
「バーベキューは、尾崎も呼ぼう。デイ、とかいうのが昼間はあるんよの?」

 木下にそう訊くと、深くうなずいて肯定した。

「うん、言うとくわ」

 なんだかワクワクしてきた。今から夏休みが楽しみだ。

「ほいじゃあ、会計するか。車に戻っとけ」

 浦辺先生はガラガラとカートを引いて、レジへと向かっていく。途中で川内と会って、植木鉢やらなにやらカートに乗せさせているのが見えた。

 俺たちは出口に向かって軽やかに歩く。
 肉体労働ばかりさせられているような気がしていたが、なかなか素晴らしいご褒美があるではないか。
 隣を歩く木下が上機嫌な様子で言う。

「千夏も嬉しいじゃろう。あいつ、肉が好きじゃけえのう」
「……えっ?」

 思わず足を止めて、木下をまじまじと見つめてしまった。
 千夏?

 たぶん、二人は子どもの頃は名前で呼び合っていたのだろうとは思う。その癖が出たとも考えられる。

 でも、今のは、違う気がする。
 そういう響きではなかった。

「うん?」

 足を止めてしまった俺に気付いた木下も、その場に立ち止まって訝し気に俺を見る。
 しばらく木下は気付かない様子だったけれど、少しして、「あー!」と叫んだ。
 そして右手で口を押さえた。どう考えても今さらだけれど、そうせずにはいられなかったのだろう。

「やっべ……」
「えーと、……両想い?」

 この様子を見るに、つまり、あれから二人は進展した、ということでいいのだろう。
 そしてそれは、秘密にするつもりだったのだろう。
 木下は上目遣いで、少し睨むような眼でこちらを見てくる。

「言うなよ、黙っとけ言われとるんじゃ」
「自信ない……」

 正直にそう言った。
 そしてちらりとこちらに向かってくる川内に視線を移した。