「そういうわけじゃけえ、尾崎は何の花がええ?」
そう昼休みに尾崎に訊いてみる。
「花かあ」
箸をくわえたまま、尾崎はうーん、と唸った。
「そう言われてもねえ。ウチ、花とか詳しゅうないし」
「何色がええかとか、花が小さいのとか大きいのとか、そういうんでもええよ?」
川内がそう一生懸命言っている。
けれど尾崎の返事は芳しくはない。
「うーん……。ほいでも、今植えて、九月に咲かせるんじゃろ? どれがええかわからんわ。ひまわり育てたい、言うてもダメじゃん」
そう言われると、確かに。
「じゃけえ、それは悪いけど任せるわ。水やるくらいなら、ちゃんとやるけえ。ホンマよ?」
尾崎はそう言って、にっこりと笑う。
けれどどことなく、疲れているような気がした。考えることすらも面倒だと思っているけれど、それを顔には出さないように努力しているように見えた。
だからそれ以上、考えてみて、とは言えなかった。
それは、他の二人も感じ取っていたと思う。
「ほいじゃあ、ワシらが適当に決めとくわ」
「うん、頼むねー」
木下が話を打ち切って、尾崎はそれに乗って、そうして昼休みは終わった。
◇
放課後、浦辺先生の車に乗って、ホームセンターに向かう。
焼山には郊外型の規模の大きな店舗があるのだ。さすがは田舎だ。
駐車場に停められた車から降りた木下は、店を見上げて感心したように言った。
「はー、でっかいのう」
「呉にはなかったっけ」
「あったかのう。あ、市役所の近くに一戸あるわ。そんなにでかくない」
「ふーん」
そんなことをしゃべりながら、店の中に入る。
浦辺先生はカートを引いてきて言った。
「まあ適当に種でも選びよけや。ワシは土とか積むけえ」
「はーい」
先生と別れて、店の中に入る。
ホームセンターという場所は、なんとなく心躍る。きっと財布の中にたくさんのお金が入っていても、すぐに使い切ってしまうのではないだろうか。
「もし、町中にゾンビが溢れて、どこかに籠らんにゃいけんようになったら、ワシはホームセンターに籠る」
「わかる! ホームセンターなら生き残れる気がする!」
「武器もあるよのう」
「チェーンソーとか」
「食料もあるし」
そもそも町中にゾンビが溢れることはない、とかいうツッコミは不要だ。
ホラー映画とかゲームとか、そういうのを見たあと、自分ならどこに基地を置くか、というのは誰しも考えることだと思う。
「種はあっちみたい」
川内は、そんなバカなことをしゃべっている俺たちを尻目に、種が売ってあるほうに歩き出していた。
男子二人は、使いもしない変わった形の鍋とか、便利グッズとかにフラフラと目を奪われるが、川内だけは脇目もふらずに一直線に園芸コーナーに向かっていた。
たぶん、彼女が一番興味が惹かれるのが、そこなのだろう。
俺たちが飾りもしない神棚を見て「かっけー」とか言っているのと、実は似たようなものなのかもしれない。
種の入っている袋がずらりと並んだ棚の前でしゃがみ込んで、川内はキラキラした瞳で手に取っては戻し、手に取っては戻ししている。
遅れて到着した俺たちも、適当に一つ、手に取ってみる。
「どれでもええんかのう」
表に印刷された花の写真を見ながら、木下が首をひねっている。
「裏に、何月に植えたら何月に咲くとか書いてあるよ」
川内に言われて、手に持っていた種の袋を裏返す。
「あ、ホンマじゃ」
「九月くらいに咲くのがええんよのう」
「別に、全部咲かんでもええかもしれんよ。これから咲きますよ、っていう蕾でも綺麗なし」
「なるほど」
「プランターで何種類も植えられるけえ、時間差で咲くのもいいよね」
「ほいじゃあ、何個か選んだほうがええんか」
「一種類でもええと思うよ。いっぱい咲くのが綺麗なんもあるし。私は去年はパンジーだけのプランターをいっぱい作ったよ」
漠然としていてイメージが湧かずに悩む俺たちとは対照的に、川内は珍しく饒舌だ。
「どうしようかのう……」
そう言って、目を動かしていた木下が急に、「あ!」と声を上げた。
何ごとかと振り向くと、下のほうにあった種の袋を指差している。
「サボテンの種がある!」
「マジで?」
木下が指差す先を見てみると、本当にサボテンの種があった。何種類かのサボテンの種が混合で入っていると書いてある。
「サボテンって種から育てられるんか」
「知らんかった」
サボテンと聞くと、サボテンを枯らせたと話した尾崎を思い出してしまって、三人で小さく笑った。
木下はその種の袋を手に取って、そして満足げにうなずいた。
「これにしよう、これ。尾崎はこれがええ」
「どんな顔するか楽しみじゃ」
「じゃあ、サボテン用の土も買ってもらいたいな。あとプランターじゃなくて植木鉢のほうがええかも。水はけが良うないと」
「先生に頼もう」
なんだか急に、種を選ぶのが楽しくなってきてしまった。
俺たちはああでもないこうでもない、とワイワイと話し合った。
そう昼休みに尾崎に訊いてみる。
「花かあ」
箸をくわえたまま、尾崎はうーん、と唸った。
「そう言われてもねえ。ウチ、花とか詳しゅうないし」
「何色がええかとか、花が小さいのとか大きいのとか、そういうんでもええよ?」
川内がそう一生懸命言っている。
けれど尾崎の返事は芳しくはない。
「うーん……。ほいでも、今植えて、九月に咲かせるんじゃろ? どれがええかわからんわ。ひまわり育てたい、言うてもダメじゃん」
そう言われると、確かに。
「じゃけえ、それは悪いけど任せるわ。水やるくらいなら、ちゃんとやるけえ。ホンマよ?」
尾崎はそう言って、にっこりと笑う。
けれどどことなく、疲れているような気がした。考えることすらも面倒だと思っているけれど、それを顔には出さないように努力しているように見えた。
だからそれ以上、考えてみて、とは言えなかった。
それは、他の二人も感じ取っていたと思う。
「ほいじゃあ、ワシらが適当に決めとくわ」
「うん、頼むねー」
木下が話を打ち切って、尾崎はそれに乗って、そうして昼休みは終わった。
◇
放課後、浦辺先生の車に乗って、ホームセンターに向かう。
焼山には郊外型の規模の大きな店舗があるのだ。さすがは田舎だ。
駐車場に停められた車から降りた木下は、店を見上げて感心したように言った。
「はー、でっかいのう」
「呉にはなかったっけ」
「あったかのう。あ、市役所の近くに一戸あるわ。そんなにでかくない」
「ふーん」
そんなことをしゃべりながら、店の中に入る。
浦辺先生はカートを引いてきて言った。
「まあ適当に種でも選びよけや。ワシは土とか積むけえ」
「はーい」
先生と別れて、店の中に入る。
ホームセンターという場所は、なんとなく心躍る。きっと財布の中にたくさんのお金が入っていても、すぐに使い切ってしまうのではないだろうか。
「もし、町中にゾンビが溢れて、どこかに籠らんにゃいけんようになったら、ワシはホームセンターに籠る」
「わかる! ホームセンターなら生き残れる気がする!」
「武器もあるよのう」
「チェーンソーとか」
「食料もあるし」
そもそも町中にゾンビが溢れることはない、とかいうツッコミは不要だ。
ホラー映画とかゲームとか、そういうのを見たあと、自分ならどこに基地を置くか、というのは誰しも考えることだと思う。
「種はあっちみたい」
川内は、そんなバカなことをしゃべっている俺たちを尻目に、種が売ってあるほうに歩き出していた。
男子二人は、使いもしない変わった形の鍋とか、便利グッズとかにフラフラと目を奪われるが、川内だけは脇目もふらずに一直線に園芸コーナーに向かっていた。
たぶん、彼女が一番興味が惹かれるのが、そこなのだろう。
俺たちが飾りもしない神棚を見て「かっけー」とか言っているのと、実は似たようなものなのかもしれない。
種の入っている袋がずらりと並んだ棚の前でしゃがみ込んで、川内はキラキラした瞳で手に取っては戻し、手に取っては戻ししている。
遅れて到着した俺たちも、適当に一つ、手に取ってみる。
「どれでもええんかのう」
表に印刷された花の写真を見ながら、木下が首をひねっている。
「裏に、何月に植えたら何月に咲くとか書いてあるよ」
川内に言われて、手に持っていた種の袋を裏返す。
「あ、ホンマじゃ」
「九月くらいに咲くのがええんよのう」
「別に、全部咲かんでもええかもしれんよ。これから咲きますよ、っていう蕾でも綺麗なし」
「なるほど」
「プランターで何種類も植えられるけえ、時間差で咲くのもいいよね」
「ほいじゃあ、何個か選んだほうがええんか」
「一種類でもええと思うよ。いっぱい咲くのが綺麗なんもあるし。私は去年はパンジーだけのプランターをいっぱい作ったよ」
漠然としていてイメージが湧かずに悩む俺たちとは対照的に、川内は珍しく饒舌だ。
「どうしようかのう……」
そう言って、目を動かしていた木下が急に、「あ!」と声を上げた。
何ごとかと振り向くと、下のほうにあった種の袋を指差している。
「サボテンの種がある!」
「マジで?」
木下が指差す先を見てみると、本当にサボテンの種があった。何種類かのサボテンの種が混合で入っていると書いてある。
「サボテンって種から育てられるんか」
「知らんかった」
サボテンと聞くと、サボテンを枯らせたと話した尾崎を思い出してしまって、三人で小さく笑った。
木下はその種の袋を手に取って、そして満足げにうなずいた。
「これにしよう、これ。尾崎はこれがええ」
「どんな顔するか楽しみじゃ」
「じゃあ、サボテン用の土も買ってもらいたいな。あとプランターじゃなくて植木鉢のほうがええかも。水はけが良うないと」
「先生に頼もう」
なんだか急に、種を選ぶのが楽しくなってきてしまった。
俺たちはああでもないこうでもない、とワイワイと話し合った。