結局、スイカの種撒きは時期が遅いということで、見送ることになった。
 というわけで、俺たちは四人でひたすら畑に生えていた雑草を抜いている。
 なんだか俺が考えていた園芸部というものと、ものすごく違う気がするが、考えないようにしよう。

「スイカがー……」

 雑草を引っこ抜きながら、がっくりと肩を落とす尾崎に、川内が苦笑しながら言う。

「私もスイカは育てたことないけえ調べてみたけど、整枝とか受粉とかせんといけんみたいなし、よく調べて来年がんばろ?」
「うん……」

 尾崎はやっぱり、川内に言われるとなんでも素直にうなずく。

「でもネギって! お母さんは喜ぶかもしれんけど!」
「割と簡単じゃし、スイカ育てるのに土が良くなるんじゃって」
「スイカのためかー……」

 はあ、と大きくため息をついて、またブチブチと雑草を抜いている。
 もう何年も放置していたせいか、花壇とは比べものにならないくらいに、畑は雑草だらけだ。
 まずはここを畑として使えるようにするまでに、結構な時間がかかるような気がして不安になる。

「サボテン枯らしたお前がスイカとか、そんな難しそうなん育てられるんか?」

 笑いながら木下がそう言う。
 尾崎はその言葉に唇を尖らせた。

「クソムカつくわ」
「クソとか言うな。女じゃろうが」
「はああ? 男じゃ女じゃ言うな。差別じゃ!」

 また始まった、と川内と顔を見合わせて苦笑する。
 悲しいかな、じゃれ合いにしか見えないし、木下が尾崎に構って欲しそうにしか思えない。

 しかし。

「それに、どうせ女に見えてないんじゃろうに、うるさいわ」

 尾崎のその言葉に、木下はぴたりと動きを止めた。
 そして、バッと立ち上がる。
 それから、尾崎のほうに振り返った。

「な、なんよ」

 急なその動きに驚いたのか、尾崎は少し身を引いた。

「見とるよ」

 その言葉に、尾崎は動きを止めた。
 瞬きを繰り返し、木下の顔を呆然と見上げている。
 その視線を受け、木下の顔はみるみる真っ赤になっていった。本当に耳まで赤かった。

「ワシは、女として見とるで! バーカ!」
「は、はああ? バ、バカとはなんよ!」
「うるさい! ワシは帰るで!」

 真っ赤な顔のまま、木下は畑を横切っていき、そして置いてあったカバンを鷲掴みにし、そのまま校門に向かって走っていった。ジャージのままで。

 そしてあっという間にジャージ姿の木下の姿が見えなくなり。
 後にはあんぐりと口を開けたままの尾崎と、それをおろおろと見ている俺と川内が残った。

 どうしたらいいんだろう、これ。余計なことは言わないほうがいいんだろうか。けれど話を逸らすのもおかしいような気がする。

「な……」

 沈黙を破ったのは、尾崎だった。

「な、なにを言いよるんかね、あのバカは」

 はは、と半笑いでそう言う。
 川内がおろおろとしながらも、尾崎に向かって口を開いた。

「ち、千夏ちゃん、バ……バカはいけんよ」
「いや、バカじゃわ、あいつは。わけのわからんことを急に」

 急に言われてどうしたらいいのかわからない尾崎の気持ちもわかる。
 けれど、木下の気持ちを考えたら、やっぱり尾崎に同意はできなかった。

「いや、バカは言うちゃあいけん」

 だから、そう言った。

 尾崎はまだ混乱しているのか、俺の顔を見て、それから川内の顔を見て、そして辺りに視線をさまよわせて。
 そして右手で顔の半分を隠して、うつむいた。

「な、なんかよくわからんけえ」
「う、うん」
「……とりあえず、帰るわ」
「あ、ああ、うん……」
「じゃ、じゃあまた明日ね」
「うん……」

 ふらふらと尾崎は畑を出て行く。
 俺と川内は思わず顔を見合わせて、しばらく見つめ合ってしまった。

 いやこれ、本当に、どうしたらいいんだろう。