まずは、暖かくなってきてニョキニョキと生え出した花壇の雑草をなんとかしようということになった。
俺たちはジャージに着替えて軍手をはめて、雑草を手当たり次第に抜いた。
喋りながらだったので、そこまで苦痛ではなかったし、雑然としていた花壇が綺麗になったのは気持ちが良かった。
しかし、身体には、クル。
「ああー、腰が痛い」
「じいさんか」
腰をトントンと叩いていた俺に、木下は呆れたようにそう返してきた。
クスクスと笑いながらそれを見ていた川内が、言う。
「でもありがとうね。こんなに早う終わるって思わんかった」
「ハルちゃん、お礼はいらんよ。園芸部の活動なんじゃけえ、やって当たり前」
尾崎はそう川内に話し掛けている。
そういう二人を見ていると、尾崎は過保護な姉という気がしてきた。
「いいや、川内はええけど、尾崎はワシらにドンドン礼を言うくらいがちょうどええ」
そして木下は、それに突っかかる弟、という感じか。
「なんでウチだけ」
「ずっとしゃべりよったじゃろうが」
「退屈せんかったじゃろ?」
「それは確かに」
俺は尾崎の言葉にうなずく。
しかしこの場合、俺の立ち位置はなんなんだろう。
「じゃあ、着替えて帰ろうか」
「うん」
教室に帰って、俺たち男子は教室で着替える。
女子二人は荷物を持って、更衣室に向かった。
「うお、マジで身体痛え」
「運動不足じゃのう」
笑いながら木下が言う。
よく考えると、体育以外で運動なんてしていない。したいとも思わない。かろうじて、通学時の自転車こぎか。運動部のヤツらはすごい、と思う。
着替え終えて、靴箱のところで女子二人を待ち、そして上履きから靴に履き替える。
そして四人で校舎を出たところで。
「タカちゃーん!」
前方の駐車場からこちらに呼びかける声がして、慌てて顔を上げる。
この声は。
「姉ちゃんっ?」
よく見る軽の黒い車。そしてその窓から、よく見る顔を覗かせて、手を振ってくる人。
「姉ちゃん?」
他の三人が、こちらを見て首を傾げる。
なんだか冷汗がどっと出てくるような感覚がした。タカちゃんて。人前で言うなって、いつも言っているのに。
俺は慌てて車に駆け寄る。
「なっ、なんで!」
ニコニコとこちらを見る姉ちゃんに、抑えた声で言う。
「なんかー、お母さんが、最近帰りが遅いって言うけえ、見に来た」
ちなみに姉ちゃんは、帰りが俺よりかなり遅い。
「大学生にはいろいろあるんよ」とか言っているが、「いろいろ」がなにかは知らない。
たまに早く帰ってくることもあるので、今日がそのたまに、なんだろう。
「母ちゃんには部活しよるって言うたのに!」
「知っとる。園芸部だって?」
「知っとるんなら」
「信用されてないんよ、あんたは」
ニヤニヤとしながら、そんなことを言う。
つまり、本当に園芸部に入っているのか、実はそれは方便で、遊び回っているんじゃないかと思われているらしい。
心外だ。帰ったら文句言ってやる。
俺の心の中を読んだのか、姉ちゃんは続けた。
「いやまあ、ホントは興味があったけえ来た。面白そうじゃし。園芸部なんて柄じゃないじゃろ?」
俺も柄じゃなかったらしい。
なにか言ってやろうと口を開いたところで、姉ちゃんの視線が俺の後ろに動いた。
「あ、こんにちは」
振り返ると、三人がこちらにやってきていた。
「こんちはー」
「こんにちは」
「ちっすー」
三者三様の返事を受けて、姉ちゃんはにっこりと笑った。
「タカちゃんがお世話になっとるねー。園芸部の子ら?」
「あ、はい、そうです。お世話になってます」
そう言って、川内がぺこりと頭を下げた。
いやだから、タカちゃん、はやめろ。
「もうええじゃろ。帰れって」
俺は慌ててそう言う。これ以上話をさせたら、どんなことになるのかわかったもんじゃない。
しかし俺の言うことなど姉ちゃんが聞くはずもないのだ。
「いやーん、つれないなあ」
おどけたように言う。素直に帰る気はまったくなさそうだ。
「そもそも、部外者は校内に入っちゃいけんじゃろ」
俺の言葉に、姉ちゃんは唇を尖らせた。
「部外者とか言わんといて。卒業生なんじゃけえ、来てもええじゃろ?」
「卒業生なんですか?」
尾崎が興味をひかれたのか、そう首を傾げた。
「うん、そう。相変わらずバス停から遠いねー」
そう言って、姉ちゃんはケラケラと笑う。
そして三人に向かって口を開いた。
「乗っていきんさいや」
車内を指差して姉ちゃんが言う。なんだって?
呆然としている俺を他所に、尾崎がはしゃいだ声を上げた。
「ええんですか?」
「ええよー、乗って乗って」
「僕もええんです?」
僕って。
「ええよー、そっちの子も」
「えっ、でも、悪いし……」
「ええよええよ、遠慮しんさんな。はい、乗る乗る!」
俺を差し置いて、どんどん話が進んでいく。
「えっ、ちょっと……」
「タカちゃんは自転車じゃろ? それにこれ、軽じゃし三人までじゃわ」
「すまんのー」
「じゃあまた明日ね」
「ご、ごめんね」
俺がなにも言えずにいる間に、三人が車に乗り込む。
バタン、と扉が閉まったと同時に、姉ちゃんが窓を閉めながら言った。
「じゃあねー」
俺はただ呆然と、姉ちゃんの車が走り去っていくのを、見送るしかできなかった。
俺たちはジャージに着替えて軍手をはめて、雑草を手当たり次第に抜いた。
喋りながらだったので、そこまで苦痛ではなかったし、雑然としていた花壇が綺麗になったのは気持ちが良かった。
しかし、身体には、クル。
「ああー、腰が痛い」
「じいさんか」
腰をトントンと叩いていた俺に、木下は呆れたようにそう返してきた。
クスクスと笑いながらそれを見ていた川内が、言う。
「でもありがとうね。こんなに早う終わるって思わんかった」
「ハルちゃん、お礼はいらんよ。園芸部の活動なんじゃけえ、やって当たり前」
尾崎はそう川内に話し掛けている。
そういう二人を見ていると、尾崎は過保護な姉という気がしてきた。
「いいや、川内はええけど、尾崎はワシらにドンドン礼を言うくらいがちょうどええ」
そして木下は、それに突っかかる弟、という感じか。
「なんでウチだけ」
「ずっとしゃべりよったじゃろうが」
「退屈せんかったじゃろ?」
「それは確かに」
俺は尾崎の言葉にうなずく。
しかしこの場合、俺の立ち位置はなんなんだろう。
「じゃあ、着替えて帰ろうか」
「うん」
教室に帰って、俺たち男子は教室で着替える。
女子二人は荷物を持って、更衣室に向かった。
「うお、マジで身体痛え」
「運動不足じゃのう」
笑いながら木下が言う。
よく考えると、体育以外で運動なんてしていない。したいとも思わない。かろうじて、通学時の自転車こぎか。運動部のヤツらはすごい、と思う。
着替え終えて、靴箱のところで女子二人を待ち、そして上履きから靴に履き替える。
そして四人で校舎を出たところで。
「タカちゃーん!」
前方の駐車場からこちらに呼びかける声がして、慌てて顔を上げる。
この声は。
「姉ちゃんっ?」
よく見る軽の黒い車。そしてその窓から、よく見る顔を覗かせて、手を振ってくる人。
「姉ちゃん?」
他の三人が、こちらを見て首を傾げる。
なんだか冷汗がどっと出てくるような感覚がした。タカちゃんて。人前で言うなって、いつも言っているのに。
俺は慌てて車に駆け寄る。
「なっ、なんで!」
ニコニコとこちらを見る姉ちゃんに、抑えた声で言う。
「なんかー、お母さんが、最近帰りが遅いって言うけえ、見に来た」
ちなみに姉ちゃんは、帰りが俺よりかなり遅い。
「大学生にはいろいろあるんよ」とか言っているが、「いろいろ」がなにかは知らない。
たまに早く帰ってくることもあるので、今日がそのたまに、なんだろう。
「母ちゃんには部活しよるって言うたのに!」
「知っとる。園芸部だって?」
「知っとるんなら」
「信用されてないんよ、あんたは」
ニヤニヤとしながら、そんなことを言う。
つまり、本当に園芸部に入っているのか、実はそれは方便で、遊び回っているんじゃないかと思われているらしい。
心外だ。帰ったら文句言ってやる。
俺の心の中を読んだのか、姉ちゃんは続けた。
「いやまあ、ホントは興味があったけえ来た。面白そうじゃし。園芸部なんて柄じゃないじゃろ?」
俺も柄じゃなかったらしい。
なにか言ってやろうと口を開いたところで、姉ちゃんの視線が俺の後ろに動いた。
「あ、こんにちは」
振り返ると、三人がこちらにやってきていた。
「こんちはー」
「こんにちは」
「ちっすー」
三者三様の返事を受けて、姉ちゃんはにっこりと笑った。
「タカちゃんがお世話になっとるねー。園芸部の子ら?」
「あ、はい、そうです。お世話になってます」
そう言って、川内がぺこりと頭を下げた。
いやだから、タカちゃん、はやめろ。
「もうええじゃろ。帰れって」
俺は慌ててそう言う。これ以上話をさせたら、どんなことになるのかわかったもんじゃない。
しかし俺の言うことなど姉ちゃんが聞くはずもないのだ。
「いやーん、つれないなあ」
おどけたように言う。素直に帰る気はまったくなさそうだ。
「そもそも、部外者は校内に入っちゃいけんじゃろ」
俺の言葉に、姉ちゃんは唇を尖らせた。
「部外者とか言わんといて。卒業生なんじゃけえ、来てもええじゃろ?」
「卒業生なんですか?」
尾崎が興味をひかれたのか、そう首を傾げた。
「うん、そう。相変わらずバス停から遠いねー」
そう言って、姉ちゃんはケラケラと笑う。
そして三人に向かって口を開いた。
「乗っていきんさいや」
車内を指差して姉ちゃんが言う。なんだって?
呆然としている俺を他所に、尾崎がはしゃいだ声を上げた。
「ええんですか?」
「ええよー、乗って乗って」
「僕もええんです?」
僕って。
「ええよー、そっちの子も」
「えっ、でも、悪いし……」
「ええよええよ、遠慮しんさんな。はい、乗る乗る!」
俺を差し置いて、どんどん話が進んでいく。
「えっ、ちょっと……」
「タカちゃんは自転車じゃろ? それにこれ、軽じゃし三人までじゃわ」
「すまんのー」
「じゃあまた明日ね」
「ご、ごめんね」
俺がなにも言えずにいる間に、三人が車に乗り込む。
バタン、と扉が閉まったと同時に、姉ちゃんが窓を閉めながら言った。
「じゃあねー」
俺はただ呆然と、姉ちゃんの車が走り去っていくのを、見送るしかできなかった。