◇

暗い気持ちのまま業務が終わり、病棟を出た瞬間に電池が切れて重い足取りでバス停まで歩いた。
重苦しい気持ちは慣れない。自分のせいだから仕方がない。いままで何度か相性が悪い患者さんと険悪ムードになったことがあった。痛さや体が不自由なせいで機嫌が悪いことは多々あり、感じ取り接したいと思ってもうまくいかない時もある。自身の経験不足と知識不足から出たことだと前向きに捉えてきたけれど、今日はかなり衝撃が重い。気持ちも体も重い。
「あー……だめ。今日はだめだわ」
空を見上げてそうつぶやく。天気までどんよりしている。
とりあえず、早く帰ってご飯を食べて寝るしかない。それしかない。寝ちゃうのが一番いい。
途中コンビニで缶ビールとつまみを買い込んで帰宅した。部屋に入ると床にバッグを放り投げる。
「ただいま」
いつもなら玄関ドアを開けたらおかえりと言ってくれる正宗くんの姿が見えない。買い物にでも行ったのだろうか。
コンビニ袋から缶ビールとチーズを取り出す。缶ビール一本を一気飲みした。止めどなくため息が漏れる。
「情けない」
失敗したからといってお酒に逃げるなんて。二本目も勢いをつけて飲むとくらくらと視界が揺れる。空腹にアルコールを流し入れたから酔いのまわりが早い。
「ああ。なんでもっとうまくできないんだろうなぁ」
誰も聞いてくれない愚痴は壁に当たって跳ねかえる。三本目のビールも半分まで飲んだ。
「おーい。正宗くんよー」
正宗くんはまだ帰ってこない。早く戻って来て欲しいと思う。どこでなにをしているのか、眼帯なんだから運転しないで、危ないんだから。あ、駐車場を見てこなかったし車で出かけたのかは分からないから自転車かもしれないけど。どっちも危ないから、徒歩にしろ、徒歩に。徒歩最強だから。
ああ。つまみが足りないかもしれない。さきいかも買ってくればよかったかな。
四本目を開けたところで、くらりと少し目が回ってしまった。
「まわってる」
そのままバタリと寝転がった。気持ちがよかった。また、リビングで寝ないでくださいって、言われるね。
ああ、正宗くん。わたしは、だめなやつだよね。

「……よ」
夢を見た。お祖母ちゃん。ごめんね、お祖母ちゃん。お祖母ちゃん。
「……ちよ」
ああ、わたしを呼んでいるのね。
トーストの焼き方がどうだとか、文句を言ってごめんね。ごめん。ごめんなさい。