6月8日

ここに来て一ヶ月が経った。あの時、はじめに声をかけてくれた木ノ崎彩芽と、特に仲良くしている。5人で一緒にご飯を食べていたのは最初の1週間だけで、その後はずっと彩芽と二人で食べていた。転向して来た初日に、わざわざ私の家までやって来た支倉は、あれ以降パン屋にいた女の子について触れることはなく、何事もない関係が続いていた。そして、やはり一緒に帰ったことは未だにない。

 このクラスは全員合わせても20人もいない。こんな世界から隔離された町だから仕方のないことなのだが、都会の暮らしに慣れていた私にとっては、この少人数特有の親密感が妙に引っかかる。
 そんな中でも、やはり高校生だ。このクラスの中で付き合っている男女もいる。初日にご飯を食べた春陽と、サッカーの上手い、いかにも「好青年」というような雰囲気の鬼頭悠だ。2人は交際して半年になるらしく、毎日一緒に登下校している。
 男子の名前もだいぶ覚えてきた。鬼頭と仲が良いのは、同じくサッカーが趣味の谷田俊。個人的に一番カッコ良いと思っている。クラスの委員長は塩田明人。その塩田と仲が良いのは森島誠だ。森嶋くんは少し話しかけにくいオーラがあり、未だに会話をしたことがない。「僕が委員長だからいつでも頼って。」と塩田は言ってくれたが、何かあれば彩芽に聞くので、頼ったことは一度もない。
 初日にご飯を食べた愛は家がクラスメイトの中で一番近くにあるので、週末に外に出ると、犬の散歩をしている愛に会うことがよくある。
 また、未だに一度も話したことがない女子もいる。北村紅子と森七波だ。北村さんはクラスの中であまり仲の良い友達がいないのか、いつも1人でいて、その上席も遠いので、あまりこれまで接点がなかったのだ。そして、森七波にいたっては、まだ会ったこともない。どうやら不登校らしい。
 最後に、私が一番嫌いな早野正和という男子もいる。席が斜め前なので、何度か話したことがあるのだが、声が大きくて授業中もうるさく、とにかく苦手なタイプだ。家はこの町で一番大きい病院「早野総合病院」で、医学部志望なんだそうだ。ただ、この学年で一番頭が良いのは別の人なのだが。

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「みんな、先に着いてー。朝の会始めます。」

 智奈先生が教室に入ってきた。このクラスでは誰も櫻井先生とは呼ばず、下の名前で案外親しまれている。こんな田舎の学校だから、先生も特に文句を言うことはない。
 
「今日は昼から大雨の予報だから、もしかしたら帰ることになるかもしれないので、一応念頭に入れといてくださいね。あと、今日の2限の体育は運動場で行うと今川先生が言ってたので、みんな注意してね〜。」

「マジかー熱いしだるいなー」

一番に大声でそう言ったのは早野だった。早野はバスケットボールが得意なので、運動場での体育は不満なのだろう。

「今日日焼け止め忘れたわー最悪。」

隣で彩芽も文句を言っていた。自分も日焼け止め塗ってないなあと思いながら、ぼんやり外を眺めていた。正直言って、転校したいと言ったのは自分だし、前の暮らしに比べてはずっといい。だけど、ふとした時に、やっぱりこのクラス、嫌だなあと思ってしまうのだ。

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「じゃあ、準備体操するから、広がってください。」

「ねぇ、怜乃ちゃん。今日の授業何すると思う。」

愛が隣で体操をしながら聞いてきた。

「やっぱり陸上競技かなあ。100m走とか?」

「まじかー、私走るの苦手なんだよなあ。」

「私も走るのはあんまり得意じゃない。」

お互い苦笑いをしながら話していると、先生が

「今日はみんなで鬼ごっこでもしようかなって思いまーす。」