持っている人しか雇われないんだよ」
 従業員の夢をお客様が提供してくれる。
 どういうこと?
「そのために私は夢を持っているかあなたに
聞いたんだよ。私は、モデルになりたくて、
陽和と偶然会ってここに勤めるようになった
の」
 偶然か。そんなことあるのかな。
「……私は」
 私の夢は小説家なのかな?
 でも、本当になりたいの?
「それであなたの夢はなに?」
 くるみさんは、本を奥にしまいつつ掃除し
ている私に言ってきた。
「……一応、小説家です」
 私は、今思っている夢を口にして、はいと
頷いた。本の埃をパッパッと払い私の話を相
槌を打ちながら彼女は聞いていた。
「……ふ―ん、そう。陽和はこの子入れたん
だ。でも、この店は、あんまり客来ないから」
 この店は、あんまり客が来ないとかアルバ
イトしている意味あるのかな。しかも引っか
かるのは、お客様は従業員の夢を叶えるため
に来てくれること。
「私達の夢のためにお客様が来てくれるんで
すか?」
「そうよ。だからね、夢って言っても私達の
店は、諦めた夢を持つ人がここで雇ってんの」
「はあ……」
 私はため息混じりの声を発した。作業して
いた手を止めて彼女は、私の方を向き明るい
トーンでこれからの予定を話し始めた。
「だから、夢を叶えるためにはここは最高の
場所なんだからね。覚えておいてね。後、十
五時になったら、お客さん沢山来るから。対
応よろしく―」
「あ、あの、松岡さんって何処に行かれたん
ですか?」
 私は何を思ったのか彼女に松岡さんについ
て聞いてみた。
「あ、そういえば今日は何もないと思うけど
……」
 腕を組んで上を見て彼について考えている
ようであった。分かったのか、あ―、そうか
とポンと左手に右手を置いていた。
「はいはい、そういうことね。あなたは知ら
なくて大丈夫よ」
「え? どういうことですか?」
 私は首をひねった。
「ここで働けば分かるから。徐々にね」
 何だろう、わからないな。
 私にそれだけ言って、彼女は手を止めてい
た作業を開始し始めた。
 すると、お客さんが来た。
 中年男性十人組がやってきた。
 左手首にしていた腕時計を見ると、十五時
だった。
「いらっしゃいませ」
 私は中年男性達に声をかけた。私の声は太