「すごいな…、ルーツって。シオンは、そんな話、お袋から聞いてるのか?」

レンは、口元に片手を当てて、唖然としたような表情をしている。

「そうだね。叔母さんと、お祖父様、それから、お祖父様が うちの家に保管させてた物とかで、知っていった感じだよ。」

「しっかし、そんな神社は、オカンから、聞いたことないぞ。」

両手を上げて、頭の後ろで組ながら、ルイは言うが、

「それでも、叔母さんは 毎年、里社にも、お山の奥宮にも ちゃんと詣ってたんだよ。」

いつか、シオンを連れて行くとも話ていた事も、思い出す。

「そこに、何があるんだろ?松の木って?、ほんと、俺ら、何にも知らないんだな。」

レンが ふと 棺を見た。

「あたしも、この旅行で、初めて見たよ。でも、近江商人の松の話は、教科書でも 読んだかな…。」




シオンが 杉の間を渡した、奇妙な注連縄を潜ると、春のお祭りの準備 が すでに始められていた。
もう少しすると、お囃子の練習も始まるそうだ。

注連縄は、勧請縄というらしい。

16基の曳山がでるとかで、時代衣装に身を包んだ引手の姿に、天秤棒を持った衣装もある。

近江商人の 始まりの姿をなぞらえた、編笠に天秤棒。

最低限の売荷物を 天秤棒に担いで関東に売りに行く、そんな、1本の天秤棒と足だけで、一族の『初代』も始まった。そんな姿は、南国系出身だった 叔父の姿にも 重なるようだと、シオンは思う。



近江商人の歴史は、鎌倉時代から始まるが、シオンの祖父一族は、後発組だ。『初代』は江戸時代後半に興隆している。

「ねぇ、レンとルイなら、例えば 滋賀から関東へ、商品を売るとしたら、何がひらめく?」

ちょっとシオンは 意地悪く 聞いてみた。と、ルイが、

「ん?なんだ?琵琶湖の水ぐらいだろ 名物なんてよ。あとは、田んぼしかねーんだから。」

「うーん、要するに 東京に『持ち下げる』ものだよね?」

レンも考えている。

「アタリ。綺麗な水と質のいい お米で出来るもの、お酒だよ。」

ルイが 得意げに 鼻を掻く。

近江商人達は、湖東を心臓に、血管のごとく 全国へ 『酒の醸造』を商品に、天秤棒に持ち下げた。
滋賀には、今も40もの蔵元があり、材料になる酒米を他県に提供しているほど。

「今も、昔も なんだか、変わらないんだね。」

東京で過ごす、レンは 思うものもあるのだろう。

「今は、水そのものを、売ったりしてる世の中だけどねー。」

これが、ほんとの水商売だよ。

「それもね、ただ 物を運ぶんじゃないんだよ。途中で商いして、土地の情報を吸い上げたり、支店を置きながら 支店の間で 土地の産物回しをするの。マーケティングをしながら 北上拡大する。最終は 北海道が目標の地だったんだって。
実際は、お祖父様は、中国までいっちゃってたけど。」


関西から、持ち下げたモノを、関東で売り、今度はその売り上げで、関東産物を仕入れる。そのモノを『登せ荷』として、復路でまた 流通させながら本家へ戻る。

シオンの祖父一族、『初代』も酒の醸造で関東に躍進をした。
ならば 将軍の膝元、江戸に本家を移動させるものだろう。しかし、一族はしない。

「まず、本家から当主は出ないで、完全に 支店支配人に采配をまかせるんだよね。近江の本家で、徹底して血筋からの人材を育成するのに注力するんだって。だから、全国から支配人候補が、競うために本家に修行にくるって。すごいでしょ? 大広間に当主を先頭にして、紋付き袴のエリート候補生が並ぶんだよ!」

興奮気味に、シオンは語る。実際、叔母も 夢のように話していた。
なので、レンとルイは やや引いている。

「なんだけど、年に2回だけ、当主が巡回をするんだ。その時の資金搬送に使ったのが 『松の木』なんだよねー。」

シオンの目が光る。

『ドントヤレ、ヤレヤレ、ドントヤレ、ヤレヤレ』
祭の掛け声が、聞こえるきがする。