「今日は随分暑いよね」
「ですよね、梅雨前とは思えないです」
廊下の少し前を歩く桜さんと話しながら、じんわりと滲む額の汗をタオルで押さえた。
スマホで時間を見ると、17時。先週のこの時間はもっと涼しかった気がする。5月27日という日付が目に入り、「過去には5月中に梅雨入りした年もありました」という天気のニュースを思い出す。
「ふふっ、桐賀君、こっちの3階とか、用がなければ絶対に来ないでしょ」
「そうですね、授業で使わないですし、来たことないかも」
じゃあ今日は記念日だね、といたずらっぽく笑う彼女に脳内で「いいね!」を押しつつ、南校舎の階段を3階まで上がっていった。
うちの学校は、北校舎はクラス教室、南校舎は職員室はじめその他の教室、と割と明確に分かれている。
その南校舎は、昔は歴史準備室だの地学準備室だの幾つもあったらしいけど、今はその部屋も使われなくなり、実質文化部の部室専用となっているところも多かった。
「映画制作部なんてあったんですね。そういえば去年の文化祭のパンフレットで上映会の企画を見たような……」
上を向いて思い出していると、「マイナーな部活だからね」と桜さんは眉を下げて自虐する。
「部員も3人しかいないし。部活として認定されるギリギリよ」
「3人! でも部費貰えるのって大きいですよね」
「そうそう、大して出ないけどね。どっちかっていうと部室貰える方が大きいかも。作業や保管にスペース使うからね」
そうか、確かに集まれる部屋があるのは大事だな。
「桐賀君は、中学では何の部活やってたの?」
来るんじゃないかと予期していた質問。
また一つだけ嘘を入れて、答える。
「あー、いや、遊びみたいな部活入ってたんですけど、途中で辞めちゃったんですよね。友達と遊ぶのに忙しくなっちゃって」
「そっかそっか、まあ私も入ってたけど、ほぼ遊びに行ってたようなもんだったなあ」
そうなんですか、と相槌を打ちながら、次の質問をしていいかどうか悩む。
せっかく桜さんに声をかけてもらったのに、これを言って全てダメになったらどうしようか。でも、後でがっかりされる方が辛い。
「あの、すいません。俺、正直、映画あんまり詳しくないんですけど……」
一瞬きょとんとした後、桜さんは「大丈夫」と人差し指を俺に向けた。
「みんなそうよ、映画マニアの集まりじゃない。創るのが好きな人達だから」
「そっか……良かったです。誘ってもらったのに合わなかったら悪いんで」
「そんなにハードル高い部活じゃないわよ。はい、着いたわ!」
大きく手を掲げ、南校舎3階、一番西側の教室を示した。
端の部屋なので、入口が普通の教室と90度違い、廊下から真っ直ぐドアに繋がっている。
ガラス部分には紙が貼られ、「映画制作部 部員募集!」の文字と映画泥棒のカメラの絵がマジックで書かれていた。こんなに人目に付かないビラも珍しい。
「お疲れ様ー! さっき連絡した桐賀君、連れてきたよ!」
勢いよくドアを開けた桜さんに続いて、部室に入る。
オレンジに染められた部屋は、普通の教室の半分くらいの大きさだったけど、思ったより物が多かった。
木の長テーブルと背もたれの付いたソファーベンチ、パソコン用デスクの上には結構大きい液晶のノートパソコン、パイプ椅子やスツールなど統一感のない椅子、そして俺の背より低い150cmくらいの本棚。
その棚の中には、大量の本やファイル、そしてディスクの収納ケースが乱雑に立てかけられている。
そして部室には、男女1人ずつ、残りの2人の部員が座っていた。
「ですよね、梅雨前とは思えないです」
廊下の少し前を歩く桜さんと話しながら、じんわりと滲む額の汗をタオルで押さえた。
スマホで時間を見ると、17時。先週のこの時間はもっと涼しかった気がする。5月27日という日付が目に入り、「過去には5月中に梅雨入りした年もありました」という天気のニュースを思い出す。
「ふふっ、桐賀君、こっちの3階とか、用がなければ絶対に来ないでしょ」
「そうですね、授業で使わないですし、来たことないかも」
じゃあ今日は記念日だね、といたずらっぽく笑う彼女に脳内で「いいね!」を押しつつ、南校舎の階段を3階まで上がっていった。
うちの学校は、北校舎はクラス教室、南校舎は職員室はじめその他の教室、と割と明確に分かれている。
その南校舎は、昔は歴史準備室だの地学準備室だの幾つもあったらしいけど、今はその部屋も使われなくなり、実質文化部の部室専用となっているところも多かった。
「映画制作部なんてあったんですね。そういえば去年の文化祭のパンフレットで上映会の企画を見たような……」
上を向いて思い出していると、「マイナーな部活だからね」と桜さんは眉を下げて自虐する。
「部員も3人しかいないし。部活として認定されるギリギリよ」
「3人! でも部費貰えるのって大きいですよね」
「そうそう、大して出ないけどね。どっちかっていうと部室貰える方が大きいかも。作業や保管にスペース使うからね」
そうか、確かに集まれる部屋があるのは大事だな。
「桐賀君は、中学では何の部活やってたの?」
来るんじゃないかと予期していた質問。
また一つだけ嘘を入れて、答える。
「あー、いや、遊びみたいな部活入ってたんですけど、途中で辞めちゃったんですよね。友達と遊ぶのに忙しくなっちゃって」
「そっかそっか、まあ私も入ってたけど、ほぼ遊びに行ってたようなもんだったなあ」
そうなんですか、と相槌を打ちながら、次の質問をしていいかどうか悩む。
せっかく桜さんに声をかけてもらったのに、これを言って全てダメになったらどうしようか。でも、後でがっかりされる方が辛い。
「あの、すいません。俺、正直、映画あんまり詳しくないんですけど……」
一瞬きょとんとした後、桜さんは「大丈夫」と人差し指を俺に向けた。
「みんなそうよ、映画マニアの集まりじゃない。創るのが好きな人達だから」
「そっか……良かったです。誘ってもらったのに合わなかったら悪いんで」
「そんなにハードル高い部活じゃないわよ。はい、着いたわ!」
大きく手を掲げ、南校舎3階、一番西側の教室を示した。
端の部屋なので、入口が普通の教室と90度違い、廊下から真っ直ぐドアに繋がっている。
ガラス部分には紙が貼られ、「映画制作部 部員募集!」の文字と映画泥棒のカメラの絵がマジックで書かれていた。こんなに人目に付かないビラも珍しい。
「お疲れ様ー! さっき連絡した桐賀君、連れてきたよ!」
勢いよくドアを開けた桜さんに続いて、部室に入る。
オレンジに染められた部屋は、普通の教室の半分くらいの大きさだったけど、思ったより物が多かった。
木の長テーブルと背もたれの付いたソファーベンチ、パソコン用デスクの上には結構大きい液晶のノートパソコン、パイプ椅子やスツールなど統一感のない椅子、そして俺の背より低い150cmくらいの本棚。
その棚の中には、大量の本やファイル、そしてディスクの収納ケースが乱雑に立てかけられている。
そして部室には、男女1人ずつ、残りの2人の部員が座っていた。