「よし、ここからは校庭ね。始めに風景のカット撮るから、佳澄達はちょっと休憩してて!」
時間はそろそろ11時。撮影機材をまとめ、グラウンドから少し離れた木々の多い場所に来た。
昼が近づくにつれて本気を出してきた太陽の光が木漏れ日になり、森林浴とまではいかないが、大分過ごしやすい場所になっている。
「ここは私の方で撮るわ。どこを映そうかな、っと」
そう言って、桜さんは両手の親指と人差し指で四角を作り、どの辺りをカメラで切り取るか考え始める。片目を瞑ったまま、口がややパカッと開いてしまっているのが、どこまでも集中している証だった。
「颯士さん、カメラのセッティングの仕方、教えてください」
「おお、いいぞ。まずは三脚からだな。脚ロックを外して伸ばしてくれ」
カメラの固定の仕方やマイク・モニターの付け方を教わる。高価なものなので不安になっていたが、いざやってみるとゲーム機の接続より簡単だった。
***
「はい、ちょっと撮影班も休憩!」
監督の合図で緊張が解ける校庭の一角。俺は颯士さんに頼んでカメラを使わせてもらい、レフ板を近づけた。
「キリ君、どしたの?」
「あ、ちょっとレフ板って構える場所変えるとどんな風になるのか知りたくて」
その返事に、桜さんはにいっと口角を上げる。
「モデルになってあげよっか?」
「え、あ、ホントですか! お願いします!」
桜さんに立ってもらい、上や下、横からレフ板で光を当てて録画してみる。モデルが綺麗だと映えるな……いやいや、ダメだ、集中集中。
モニターで見てみると、なるほど、印象が全然違う。下から反射しすぎるとちょっとホラーっぽくなるな。反射面をキャストと平行にするのが良さそうだ。
***
「このカット、どうかしら?」
モニターでのチェックで、1つだけ気になるところがあった。真っ先に手を挙げてみる。
「俺はこれでいいかなと思ってるんですけど、佳澄の台詞が終わった後にバイクの音入ってるじゃないですか。これは大丈夫ですか?」
「桐賀君、そこは大丈夫。完全に言い終わった後だから、編集で消せるわ」
月居の返事に、「なら良かった」と安堵する。他のみんなは知ってたのかもしれないけど、これで俺も、あのくらいの音量なら問題ないと、線引きを理解できた。
***
桜さんが、俺が一歩踏み出す場所を用意してくれた。機会は掴んだけど、同じ環境にいれば勝手に変われるなんてことはない。
みんなと同じようになりたいなんて、意識しただけでどうにかなるものでもない。それを痛感した。
この部活に入ったときと一緒。自分から飛び込まないといけない。そうやって初めて、何かが変わるのだろう。
カメラがセッティングできるようになれば、撮影の仕方を学べる。モニターを見られない状況でも、レフ板の基本が分かれば配置の感覚は掴める。気になることは恥ずかしがらずに聞けば、みんなと目線を合わせられる。
上手いだの下手だの、負けたようで悔しいだの、そんな考えは捨てる。桜さんはもちろん、颯士さんにも月居にも、キャストの3人より経験不足。劣後して当然の素人だ。だからこそ、覚悟を決めたらスッと開き直れる。
「葉介、撮影やってみるか?」
「あ、はい! 教えてください!」
技量も知識もないなら、たとえスマートじゃなくても、犬かきでもいいから進まなきゃ。
時間はそろそろ11時。撮影機材をまとめ、グラウンドから少し離れた木々の多い場所に来た。
昼が近づくにつれて本気を出してきた太陽の光が木漏れ日になり、森林浴とまではいかないが、大分過ごしやすい場所になっている。
「ここは私の方で撮るわ。どこを映そうかな、っと」
そう言って、桜さんは両手の親指と人差し指で四角を作り、どの辺りをカメラで切り取るか考え始める。片目を瞑ったまま、口がややパカッと開いてしまっているのが、どこまでも集中している証だった。
「颯士さん、カメラのセッティングの仕方、教えてください」
「おお、いいぞ。まずは三脚からだな。脚ロックを外して伸ばしてくれ」
カメラの固定の仕方やマイク・モニターの付け方を教わる。高価なものなので不安になっていたが、いざやってみるとゲーム機の接続より簡単だった。
***
「はい、ちょっと撮影班も休憩!」
監督の合図で緊張が解ける校庭の一角。俺は颯士さんに頼んでカメラを使わせてもらい、レフ板を近づけた。
「キリ君、どしたの?」
「あ、ちょっとレフ板って構える場所変えるとどんな風になるのか知りたくて」
その返事に、桜さんはにいっと口角を上げる。
「モデルになってあげよっか?」
「え、あ、ホントですか! お願いします!」
桜さんに立ってもらい、上や下、横からレフ板で光を当てて録画してみる。モデルが綺麗だと映えるな……いやいや、ダメだ、集中集中。
モニターで見てみると、なるほど、印象が全然違う。下から反射しすぎるとちょっとホラーっぽくなるな。反射面をキャストと平行にするのが良さそうだ。
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「このカット、どうかしら?」
モニターでのチェックで、1つだけ気になるところがあった。真っ先に手を挙げてみる。
「俺はこれでいいかなと思ってるんですけど、佳澄の台詞が終わった後にバイクの音入ってるじゃないですか。これは大丈夫ですか?」
「桐賀君、そこは大丈夫。完全に言い終わった後だから、編集で消せるわ」
月居の返事に、「なら良かった」と安堵する。他のみんなは知ってたのかもしれないけど、これで俺も、あのくらいの音量なら問題ないと、線引きを理解できた。
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桜さんが、俺が一歩踏み出す場所を用意してくれた。機会は掴んだけど、同じ環境にいれば勝手に変われるなんてことはない。
みんなと同じようになりたいなんて、意識しただけでどうにかなるものでもない。それを痛感した。
この部活に入ったときと一緒。自分から飛び込まないといけない。そうやって初めて、何かが変わるのだろう。
カメラがセッティングできるようになれば、撮影の仕方を学べる。モニターを見られない状況でも、レフ板の基本が分かれば配置の感覚は掴める。気になることは恥ずかしがらずに聞けば、みんなと目線を合わせられる。
上手いだの下手だの、負けたようで悔しいだの、そんな考えは捨てる。桜さんはもちろん、颯士さんにも月居にも、キャストの3人より経験不足。劣後して当然の素人だ。だからこそ、覚悟を決めたらスッと開き直れる。
「葉介、撮影やってみるか?」
「あ、はい! 教えてください!」
技量も知識もないなら、たとえスマートじゃなくても、犬かきでもいいから進まなきゃ。