あんな男、別れて正解だ。

高志とのやり取りを思い出しながら、私は心の中で憤る。
これから先も上手くやっていく自信がない。
別れようとは言っていないけど、こんなのもう別れたようなものだろう。

謝ったって、絶対に許してやらない。
彼女を山に置き去りにするとか、ありえないんだから。

考えれば考えるほど悔しくなって、胸が痛いくらいに締めつけられる。高志が悪いのか、はたまた自分にも悪いところがあったのか、今の私には判断がつかないほどまったくもって冷静な気持ちにはなれなかった。
と同時に、雫が頬を伝ってしっとりと濡らしていく。それは次から次へ頬へ流れ落ち…。

「ん?」

私は空を見上げた。
涙ももちろん出ていたけれど、次から次へ頬へ流れていたのは天からの雨だった。

「嘘っ?!」

ポツリ、ポツリと降りだし始め地面を濡らしていく。雨の匂いがした。

山の天気は変わりやすいとはよく言ったものだ。
さっきまであんなに綺麗に星が見えていた。
雲ひとつない快晴の夜空だった。
それなのに、今ではうっすらとした雲がどんどん星空を覆い隠していく。
天気のスピードに気持ちがついていけない。