「嘘でしょ?」

もう見えなくなるほど遠くに行ってしまった車を見つめながら、私は一人呟いた。
彼女を山に置き去りとか、信じられない。
どんな鬼畜だよ。

だけど私はまだ高志を信じていた。
きっとほとぼりが冷めたら迎えに来てくれるんでしょうって。
だって私は高志の彼女だもの。
いくら高志でも、こんなところに置き去りにするほど酷いやつじゃない。
一人になって頭を冷やせば帰ってきてくれる。

けれど、待てどくらせど車は来ない。
それどころか、まわりにいるカップルさえもどんどん帰り始めた。

気付けば私は、知らない山で一人ぼっちになっていた。
いい加減、高志に電話しよう。
謝って迎えにきてもらおう。
そうしないと帰る術がないのだ。

携帯を取り出して私は愕然とした。
まさかの圏外だった。

やばい。
まわりを見渡しても明かりひとつない。
高志に急に連れてこられた山だから、どこの山かもさっぱりわからない。

ただ言えることは、ここは少し開けた展望台だということ。だからここを動かなければ遭難することはないだろう。

だがそれは、すぐに甘い考えだということを思い知らされることになる。

少しずつ寒くなってきた。
まわりは真っ暗。
明かりは携帯のみ。

ただ星空が、吸い込まれそうなくらいに綺麗だった。