「でも、私も悪いんです。彼から求められてるのにずっと拒否してたから。なんか、ダメだったんですよ。意気地無しで。」

よくよく考えてみれば、確かに私にも自分勝手な面があったかもしれない。自分の気持ちばかり主張していた…かも?健全な若い男が彼女とイチャイチャしたいのは、当たり前のことだもんね。うん、たぶん。だからそれに応えてあげられなかった私ももしかしたら高志を傷付けてしまっていたかもしれない。

ひとり反省する私に、咲耶姫様は呆れたように言い放った。

「それはそなたがその彼氏を好きではない証拠だろう?情か何かで付き合っていただけじゃないか?好きな男に求められたら嬉しいに決まっておるではないか。」

「えーーーー?!あーーー、うーーーん。」

言われてみればそうかもしれない。
高志と何年かぶりに再会して盛り上がって、勢いで付き合って。彼氏ができて嬉しくて舞い上がってたけど、それは彼氏がいるっていうステータスに喜んでいただけなのかもしれない。
高志に求められて“嬉しい”なんて気持ちになっていただろうか。

「あの、咲耶姫様はご結婚されてるんですか?」

「いや。」

「彼氏は?」

「…いない。」

「そうなんですか?こんなに綺麗で優しい人、私なら放っておかないのにな。もったいないです。」

私が口を尖らせると、咲耶姫様はこれでもかと目を見開いて驚いた顔をした。
あれ?何か変なこと言っちゃったかな?

「綺麗だと?」

「え?はい。お綺麗ですよ。」

私の言葉と同時に、咲耶姫様はこたつの机をバァンと叩いた。思わずビクッと肩を震わせる。
やばい、何か怒らせたかも。

「あ、あの…。」

取り繕おうとする私に、咲耶姫様は前のめりになり叫ぶように言う。

「こんな痣があるのに綺麗なことあるか。お前も私を見て驚いた顔をしていたではないか。」

「えっ!違いますよ。あれは幽霊かと思って驚いただけで、痣なんて関係なくめちゃくちゃ綺麗じゃないですか!それに、その痣、桜みたいで綺麗ですよね。」

私はカバンからポーチを取り出し中から手鏡を探し出すと、咲耶姫様の横に行って顔を映し出す。

「ほらここ、桜の花びらみたいでしょ。」

私の指差す先は赤い痣が二枝に分かれ、まるで桜の花びらのような形になっている。そこからまたひらひらと舞うように幾重にも広がっている。

咲耶姫様は私の指差す所を鏡越しに黙って見つめた。