信尹には進藤から話が伝わったのだが、
「わざわざ治部──三成のことである──を寄越してきたということは、これは関白も本気やな」
と信尹はつぶやいた。
「御所さま──信尹をはじめ公卿は家中ではこのように呼ばれている──、いかが致しましょう」
「…ならば知恵がある」
この信尹の策は、やはりすぐに実行に移された。
三成が聚楽第へ戻ってすぐ、今度は近衛家から進藤筑後守が登城し、
「左大臣さまの使いにて、殿下にお取り次ぎをば願わしゅう」
と願い出たので三成はすぐさま秀吉の居所の書院へと進藤を案内し、
「殿下、近衛家より使いが参りましてございます」
と取り次いだ。
「近衛家諸太夫、進藤筑後守にございます」
「おぉ、姫は息災か」
「本日はその件にございますが」
と切り出した。
「先日来の評判につきましてでございますが、いよいよ姫さまにあらせられましては如何ともなし難く、左大臣さまにおかせられましては殿下の御下命どおり、狐落としの祈祷をお願いするより他なしとの仰せにございます」
進藤は平伏した。