道中で三成は、
(なんとも面倒なことを仰せられたものよ)
と、寺の小僧から引き立ててくれた主君に、いやはやというような思いで苦々しい顔をし、近衛屋敷に向かった。
近衛家では信尹みずからが出迎えることもなく、諸大夫の進藤筑後守が対応したのだが、
「ところで姫さまは」
と、進藤に様子を訊いた。
「ことのほかの美女にて、楊貴妃もかくやとの噂もありまするが」
この時期になると、すでに関白秀吉が近衛の姫に懸想しているというのは公然と京童の井戸端ばなしになっており、
「いかがしたものでありましょう」
とため息をついた。
進藤は、
「実は姫さまにあらせられましては」
言い交わした男がある、と衝撃的なことを述べたのである。
「それはまことか進藤どの」
「いかにも」
三成は内心で、
「それでは横恋慕ではないか…まったく殿下にも困ったものだ」
なんとも渋いものを感じたが、顔に出せる訳もなく、
「なれどそこを曲げて何とかなりませぬか」
と進藤に頼んだ。