女房狩は、鷹狩りと同じく狩という字がつくだけあって、要は獲物を見つける鳥見役のような役割がおり、それは侍医であり御伽衆をつとめる施薬院全宗という医師である。
医師という職掌柄、大名家とのつきあいもあって、したがってどこの大名家に見目の麗しい女房や侍女があるということをすぐに見つけ出す。
ただし。
いつもそれで女房狩が成功するとは限らない。
実際に。
細川忠興の正室お玉──のちのガラシャ──に目をつけたときなどは、
「施薬院どの」
と先に細川忠興から声をかけられ、病であるとしてお玉の診察をしたのだが、暗がりの中で脈を診る程度にとどめられてしまい、さらに詮索しようとすると細川家の屋敷内で甲冑のすれる音やら鉄砲の硝煙の臭気すらしたので、施薬院自身が身の危険を感じ、秀吉に報告をしなかったという話がある。
ともあれ。
それほどまでに、諸大名家は天下人の歪んだ性癖に警戒感を抱いていた。