夕方。
いよいよ祈祷となり、控の間にあった頭巾姿の姫が壇の決められた座についた。
護摩壇は書院の庭先に組まれた。
その下座に祈祷を行う僧が座り、その様子を書院から秀吉やおね、秀長をはじめ豊臣家の面々や、細川忠興をはじめとする諸大名家、さらには三成や施薬院など家中の者も居並んで検分するというような形である。
火が灯された。
はじめ小さかった護摩の火は、井桁に組まれた護摩木に移って炎となり、明々と照らして行く。
「ナゥマクサンマンダーラ、ナゥマクサンマンダーラ…」
僧が数珠を振りながら一心不乱に祈る。
しばらくして。
三鈷と呼ばれる法具を手にすると、僧は頭巾姿の姫の前で三鈷をかざし、
「…退散、退散!」
と振り払う仕種をする。
すると。
頭巾姿の姫がやおら立ち上がり、ふらふらと護摩壇の周りを近づいたり遠退いたりしはじめた。
「いよいよ退散でございますな」
初めて見る狐落としの祈祷に、えもいわれぬ興奮を秀吉はおぼえたのか、
「これは見事よ」
と大きくうなずいた。