青野真宙くん。

 同じ学年の中で彼の名前を知らない人は、ほとんどいないと思う。

 彼のことで周りからよく聞こえてくる言葉は。
 美少年・爽やか・頭が良い・スポーツ万能・明るい・楽しい・ムードメーカー……。
 これだけ条件が揃っていれば。
 人気にならないはずがない。

 特に女子たち。
 女子たちにとって、青野くんはアイドル的存在。
 目を輝かせて青野くんの話をしている。

 だから私も自動的に青野くんの名前だけは知っていた。


 たった今。
 アイドル的存在の青野真宙くんが私の隣に座っている。

 青野くんの顔もはっきりと見える。
 周りの人たちが話していた通り。
 すごく美少年。
 目も鼻も口も、すべて完璧。
 まるで絵に描いたような美しさ。

 これは、わかる。
 こんなにも美し過ぎる男の子が同じ学年にいたら、ウキウキしたりドキドキしたりしてしまう。

 実際に私も今、青野くんのことを見ていて……。


 ……‼

 え……⁉
 ちょっと待って……。

 私……。

 青野くんにドキドキしている……⁉



「ねぇ」


 ……‼

 青野くんに声をかけられて我に返った。


「君の名前はなんていうの?」


 青野くんにそう訊かれて。

 そうだ、まだ自分の名前を言っていなかった。
 そのことに気付いた。


「あっ、えっと、
 私は、麻倉希空。
 こちらこそよろしくね」


 少し慌てながらになってしまったけれど。
 なんとか自分の名前を青野くんに伝えた。

 つもりだったのに。


「…………」


 青野くんの反応は。
 ピンときていない様子に見えた。


 ひょっとしたら私の声が小さ過ぎて、よく聞こえなかったのかもしれない。

 もう一度、青野くんに名前を伝えよう。
 と思ったら。