「ところで、どうして信号が赤だったのに車道に出たの?」


 男の子は不思議そうにそう訊いた。


「あ……えっと……
 ちょっと考え事してて……」


 そう返答するしかなかった。

 まさか。
『学校に行きたくないということで頭の中がいっぱいになっていた』
 なんて、言えるわけがない。


「そうなんだ。
 でも考え事も、ほどほどにしないと。
 また今みたいに危険なことになってしまうから」


 男の子は心配そうにそう言ってくれた。


「うん、そうだね、ありがとう」


 確かに男の子の言う通り。
 考え事もほどほどにしないと。

 また危険なことになってしまうかもしれない。

 気をつけなければ。

 改めてそう思った。



「じゃあ」


 私のことを心配してくれた後。
 男の子は『じゃあ』と言った。

『じゃあ行くね』という意味だと思って。
 私も『じゃあね』と言おうと思った、ら……。


「今日は俺と一緒に学校に行こう。
 また、さっきみたいなことになると危ないから」


 え……えぇぇーっ‼


 一緒に行く⁉
 学校に⁉

 そっ……それは……っ。


「だ……大丈夫だよっ。
 すぐに同じことなんて起きないと思うからっ。
 それに初めて話した人に一緒に通学してもらうなんて悪いからっ」


 なんて言ったけれど。

 本当は、そうではなくて。

 心の中では必死だった。
 どうしたら男の子と一緒に通学しなくて済むのかを。

 男の子と一緒に通学したら。
 絶対に学校に行かなければいけなくなってしまうから。


「……あのさ……
 違っていたら、ごめんね。
 もしかしてだけど……」


 もしかして……なに……?