「希空ちゃん一緒に帰ろう」


 え……‼


「どうしたの? 希空ちゃん」


『一緒に帰ろう』
 真宙くんにそう言われて。
 かなり動揺していることが。
 真宙くんに気付かれたかもしれない。

 真宙くんが不思議そうな顔で私の顔を覗き込んでいる。


「な……なんでもないよ」


 精一杯。
 そう言うことが。


「じゃあ、帰ろっか」


 純粋過ぎるくらいの。
 真宙くんの笑顔。


 その笑顔を見てしまったら……。

 言えるわけがない。
『一緒に帰ることはできない』
 なんて……。


「……うん……」


 だから。
 返事をしてしまった。
『うん』と。


 ……いない……よね……?


 真宙くんに気付かれない程度に。
 そっと周りを見渡した。

 黒川さんがいないかどうか。


 今、黒川さんが見当たらなくても。
 どこで黒川さんにばったりと会ってしまうか。
 びくびくしながら。


 それでも。
 真宙くんのことを突き放すことはできない。

 だから。
 真宙くんと一緒に帰ることを選んでしまった。