黒川さんは、とても恐ろしい人だ。

 笑顔(目は笑っていない)で平気でえげつないことができてしまう。

 黒川さんの言うことをきかないときには。
 言いふらされてしまうだろう。

 私の……過去……。


 ……嫌。
 本当は。
 真宙くんと関われなくなるのは。

 それは、ものすごく辛い。


 けれど。
 私の過去を真宙くんや桜ちゃんに知られたくない。


 だから……。


「……わかった。もう真宙くんとは関わらない……」


 辛くて。
 辛くて……悔しくて……。

 そんな気持ちで胸が張り裂けそうだった。


「本当? 約束よ」


 もう、やめて。
 というくらい満面の笑みを見せた、黒川さん。


「…………」


 私は全く言葉が出なくなった。


「はい、大変よくできました」


 満面の笑みを保ちながらそう言った、黒川さん。

 なにが『大変よくできました』だ。
 人をおちょくるのもいい加減にして‼


 そう言いたい。
 本当は。

 けれど。
 今はそんな気力もない。

 というより。
 そもそも、そんな勇気は全くない。



「あっ、そろそろ行かなくちゃ。
 麻倉さん、今約束したこと、よろしくね」


 そう言って黒川さんは、黒川さんの両側にいる女子生徒たちと共に歩き出して……。


「あっ、そうそう」


 歩き出したのに。
 黒川さんは立ち止まって私の方を振り向いた。


「青野くんと付き合うようになったら、真っ先に麻倉さんに報告するね」


 真宙くんと黒川さんが付き合ったら……。

 そんな報告いらない……‼

 そう思っても。
 やっぱり言葉に出すことができなかった。