「……どうしてここに?」
 電車に一駅分乗って、少し歩いたそこは河川敷だった。
 ここは桜の名所なのである。
 とはいえ、今は秋だ。十月だ。桜が咲いているわけはなく、それどころか葉も落ちてしまって寂し気な風景しかなかった。
「あるかもしれないんだ」
「なにがです」
 昴流は混乱していたようだったが、それでもついてきた。
 俺は裸の桜の樹を一本ずつチェックしていく。見逃さないように注意して。
 もう暗くなりつつある。早く見つけなければ。
 あるはずなんだ。あのニュースを見たのはほんの数日前なんだから。心無い誰かに摘み取られてしまっていない限り。
 そして俺はきちんと『それ』を見つけることができた。ぱっと胸が明るくなる。
「おい鈴木! 見ろよ」
「なにを……。……え?」
 昴流を招いて、見せてやったもの。
 そこには、桜の裸の枝の先端。その部分だけちょこんと芽と葉が出ていて、小さな花がついていた。咲いて数日したからか少し元気はない様子だったが、確かにそれは『桜の花』。
「……なんででしょう」
 今、あるはずもないそれに昴流は呆然と言った。
「狂い咲きだよ」
 俺は誇らしげに言う。
 数日前に見たニュース。今年は桜の狂い咲きが起こっています、というローカルニュースだ。
 そのときは、ふーん、くらいしか思わなかったが、なにしろ俺の名字の由来だ。
 『逆咲』。
 逆らって、咲く。
 季節に、逆らって。
 そんな狂い咲き。
 この近辺でもあるだろうと調べたのが、ここへ来る前のスマホの検索であった。
「たまにあるだろ。秋に変に気温があがっちまうせいだかなんだったか……仕組みは忘れたけど」
「確かに……昔、科学の本で読んだかもしれません」
 俺の説明に昴流はちょっと考えて、納得したような声を出した。俺の声は明るくなる。