「その男の子は、記憶を取り戻せるの?」
意外に、彼女はこの物語に興味を持ったらしい。
そう言った彼女の長い髪が、冷たい夜風に吹かれてさらりとなびいた。
「この子は……」
「うん」
「死ぬんだ。 記憶を取り戻した、その後に」
僕の言葉を聞いて驚いたのか、彼女のまっすぐ伸びた睫毛が微かに揺れる。
「どうして?」
「……男の子は、ずっと母親に会いたかったんだ。たくさんの優しい人たちに出会って、少しずつ記憶を取り戻していくけれど、何故か母親の顔や声だけが思い出せなかった」
僕は、視線を足元に落として言う。