「どんなお話なの?」


彼女は柔らかな声で言う。


「……記憶をなくした男の子が、たくさんの人に出会って色々なことを知って、記憶を取り戻そうとする話だよ」


主人公が記憶をなくしてしまう物語は、この世の中たくさんある。

そうでなくても、この世の中にはたくさんの物語で溢れかえっている。

物語というものは、読み進めていくうちに感情が揺れて、まるで自身がその物語の主人公になったかのような感覚になってしまうことが多いらしい。

それなら、この小説の話だって、僕じゃない誰かが読めば感情が揺れて、涙を流してしまうのかもしれない。

僕じゃない、誰かであれば。