叔父さんは、物静かな人だと思っていた。
「秋樹」
「ん?」
僕の知らない本だって全部知っていて、僕よりずっと大人なんだと思っていた。
ずっと叔父さんみたいになりたくて、難しい本を鞄に忍ばせていた。五冊買って、読み終わったら一冊目に戻って。
「元気でやれよ」
そんな本のように、繰り返し、繰り返し毎日は過ぎて行って。
「おじさんもね」
これからもずっと、続くのだと思っていた。
心地良い毎日がずっと、続くと思っていたんだ。
読み続けた五冊の本は、叔父さんの部屋にこっそり置いて来た。
その行動に、意味なんてないけれど。
「秋樹」
変わらない物語なんてない。僕が生きている限り。
僕が死んで初めて、物語は変化を止める。
変わらないと思っていた毎日は、変化ばかりだった。
幼稚園の時も、小学生の時も、中学生の時も、高校生の時も。
変わらなかったのは、ただ一つ。
叔父さんが、そこにいたという。ただそれだけ。
「ありがとう」
ーーーたったそれすら、変わっていく。
「おじさん」
ページをめくると、白紙だった。
そこに文字が溢れた時、僕は変わっていく。
「ありがとう」
笑うと、頬に一滴の綺麗な涙が流れた。
この感情は、きっと、とても美しいーーーとっても、美しい。
誰もが持っているはずの感情だ。
きっと、そうなんだ。
「窈寵のアモル」 了