ーーー叔父さんは、物静かな人だった。


「秋樹」


いつだって、鞄に本を二冊は入れているような人だった。


「なに、叔父さん」


僕は叔父さんみたいになりたくて、難しい本をいつも鞄に忍ばせていた。五冊買って、読み終わったらまた一冊目に戻って。

「夕飯、何がいい」

そんな本のように、繰り返し、繰り返し毎日は過ぎて行く。

「叔父さんは何がいい」

いつからだっただろうか。
いつからこの毎日を繰り返しのように感じて、それが心地良いことに気が付いたのだろうか。

本は確か、中学生の頃から読み始めた。
同じ五冊を繰り返して。今、高校生最後の年を迎えるまでずっと、読み続けている。

「魚かな」

変わらなかった。何度読んでも。
物語は、いつまでも変わらなかった。当然だ。

僕の生活も、幼稚園の時から大きく変わることなんてなかった。
場所が変わっただけで幼稚園や小学校、中学校、高校に、行っては帰り行っては帰り。
そしてそこには必ず、叔父さんがいて。

「じゃぁ、そうしよう」

ーーこの毎日が変わることなんて、きっとない。
だって、物語は変わらないんだから。



きっと、そうなんだ。