ぞわぞわと恐怖心が募ってきて、叶海は逃げ場を探して辺りを見回した。しかし、勝手口は荷物で埋まり、居間へ続く戸を塞ぐように和則が立っている。どこにも逃げ場はない。観念した叶海は、へたりとその場に座り込んだ。

 ――そうか、そういうことか。今までみんなが親切にしてくれたのは、私を生贄にするためだったんだ……!

 ひとり絶望感に駆られていると、幸恵が叶海の肩をぽん、と叩いて笑った。

「なあに、なんも怖がることはねえよ……」

「恐怖しかないでしょ!?」

 あまりのことに叫ぶと、呵々と笑った幸恵は、思いのほか強い力で叶海の腕をしっかと掴む。そして、奥の部屋へと向かい始めた。

「……うわあああ! やだあ! 助けてえ! まだ死にたくない!」

 引きずられながらなりふり構わず叫ぶと、女性たちは叶海に声をかけた。

「叶海ちゃん、頑張れ~」

「楽しみにしてっかんな~」

「人の死を楽しみにするなんて悪趣味過ぎない!?」

「アッハッハッハ!」

 堪らず怒りをぶつけるも、返ってきたのは陽気な笑い声。途方に暮れた叶海は、天に向かって叫んだ。

「せめて雪嗣のお嫁さんになってから死にたかった~!」

「はいはい、静かにするべえ」

 こうして叶海は、幸恵に有無を言わさずに家の奥へ連れて行かれたのだった。



 ――一方、その頃。

 叶海の悲痛な想いが籠もったその声は、当たり前だが、祭りの準備を進めていた雪嗣にも届いていた。

「…………。なにをしてるんだ、あの馬鹿」

「ワハハハ! 相変わらず情熱的だな、アイツ」

 雪嗣は周囲の村人や、幼馴染みの蒼空から注がれる面白がるような視線に、とんでもなく渋い顔をすると、海よりも深いため息をついたのだった。