「なっ、なななな!? なにを言ってるのよ、お婆ちゃん!」

 ――生贄が必要な事態がこの村を襲っているってこと!? それとも、毎年誰かが犠牲になっているとでも……!?

 あまりのことに、叶海の頭の中が疑問符でいっぱいになる。ニコニコ、普段と変わらない笑みを浮かべている祖母を物恐ろしく感じて、思わず一歩後退った。

 すると、叶海は小さく安堵の息を漏らした。他の女性たちの存在を思い出したのだ。生贄なんて時代錯誤なこと、きっと彼女たちなら止めてくれる。そう信じて叶海は口を開いた。

「あ、あの。冗談だよね? 生贄なんて、ねえ……」

 叶海が助けを求める視線を向けると、女性たちは真顔で顔を見合わせた。

「悪いこと言わねえから、幸恵さんの言う通りにするんだ」

「んだんだ。名誉なことだべ。生贄になるのは」

「よかったなあ。叶海ちゃん」

 ――だ、駄目だこれ……!

 叶海は叫び出したい衝動を必死に堪えた。

気が付けば、先ほどまで賑やかだった台所が、しんと静まりかえっている。
 さっきまで楽しく話していたはずの人たちが、真顔で叶海を見つめている。特に表情の浮かんでいないその顔は、まるで知らない人のようだ。

 山奥の因習の村、迷い込んだ人間の末路――。

 一昔前のホラー映画で使い古されたような煽り文句が頭を過る。