「……『贄さん』?」

 一方、叶海はというと、ひとり首を傾げていた。

 何故ならば、小学校卒業まで龍沖村に住んでいたというのに、まるで聞き覚えのない言葉だったからだ。するとおもむろに幸恵は叶海の前に立つと、まるでお使いでも言いつけるように、気楽な口調でこう言った。

「叶海、ちょおっと……生贄(・・)になって欲しいんだけど」

「……は?」

 ――生贄。それは、叶海の知識に間違いなければ、神に捧げられる供物のことだ。

 基本的には動物を用いることが多いが、場合によっては人を供物とすることもある。日本神話で、八岐大蛇に奇稲田姫が捧げられそうになった逸話はあまりにも有名だ。災害や疫病などを防ぐために命を捧ぐ……つまりは、犠牲になる存在。