「おーい、提灯。こんなもんでいいべか」
「もうちょっと右! 斜めになってるべ」
普段は静謐な空気が流れている境内に、賑やかな声が響き渡っている。
雪嗣と叶海が住む家にも、戸が開け放たれて多くの人が出入りをしていた。
畳敷きの居間には、商工会議所から持ち込まれた机がずらりと並んでいた。広いばかりで、叶海と雪嗣だけでは普段持て余し気味のその部屋が狭く見える。
今日は龍沖村の収穫祭の日だ。毎年、米の収穫が終わった後に催され、無事に作物が収穫できたことを龍神に感謝する祭りで、その日は村人こぞって神社に集まり、朝まで飲み明かすのが慣例となっていた。
そしてこの日は無礼講だ。
神と人という垣根を越えて、杯を交わしながら村の未来を語り、近況を報告し、他愛ない話をする。この祭りは、人々が神である雪嗣の存在を再確認し、そしてここが神の棲まう地であることを自覚させる役割があるのだ。
台所では、今まさに祭りで供される料理が作られている。そこから漂ってくる空腹を刺激する匂いは、これから祭りが始まるのだということを予感させ、着々と準備を進めている人々の顔を緩めさせた。
「うわ、すごい量! 随分大きい猪だったんですね」
叶海が、山のように積まれた猪肉を繁々と眺めていると、みつ江は料理の手を止めないまま自慢げに話し始めた。
「これをな、こんにゃくと根菜と……後は味噌と生姜でじっくり煮る。うめえぞ~。酒も進むが、飯も進む! 昔、戦争なんかでなんも食うもんがねえ時代は、これが一番のご馳走だった」
「んだんだ。猪は畑を荒らすべ? だから丹精込めた野菜の敵~って、どこの男衆も目の色変えて猟に出たもんだべなあ」
「違う、違う! そんな大層なこと考えてねえべ。一番でっかいイノシシ獲った男はモテたもの! そっちが本命だ~」
「確かに! 男ってそんなもんだ。アッハハハハハ!」
「もうちょっと右! 斜めになってるべ」
普段は静謐な空気が流れている境内に、賑やかな声が響き渡っている。
雪嗣と叶海が住む家にも、戸が開け放たれて多くの人が出入りをしていた。
畳敷きの居間には、商工会議所から持ち込まれた机がずらりと並んでいた。広いばかりで、叶海と雪嗣だけでは普段持て余し気味のその部屋が狭く見える。
今日は龍沖村の収穫祭の日だ。毎年、米の収穫が終わった後に催され、無事に作物が収穫できたことを龍神に感謝する祭りで、その日は村人こぞって神社に集まり、朝まで飲み明かすのが慣例となっていた。
そしてこの日は無礼講だ。
神と人という垣根を越えて、杯を交わしながら村の未来を語り、近況を報告し、他愛ない話をする。この祭りは、人々が神である雪嗣の存在を再確認し、そしてここが神の棲まう地であることを自覚させる役割があるのだ。
台所では、今まさに祭りで供される料理が作られている。そこから漂ってくる空腹を刺激する匂いは、これから祭りが始まるのだということを予感させ、着々と準備を進めている人々の顔を緩めさせた。
「うわ、すごい量! 随分大きい猪だったんですね」
叶海が、山のように積まれた猪肉を繁々と眺めていると、みつ江は料理の手を止めないまま自慢げに話し始めた。
「これをな、こんにゃくと根菜と……後は味噌と生姜でじっくり煮る。うめえぞ~。酒も進むが、飯も進む! 昔、戦争なんかでなんも食うもんがねえ時代は、これが一番のご馳走だった」
「んだんだ。猪は畑を荒らすべ? だから丹精込めた野菜の敵~って、どこの男衆も目の色変えて猟に出たもんだべなあ」
「違う、違う! そんな大層なこと考えてねえべ。一番でっかいイノシシ獲った男はモテたもの! そっちが本命だ~」
「確かに! 男ってそんなもんだ。アッハハハハハ!」