『龍神様……!』
その瞬間、懐かしい声が聞こえた気がして、雪嗣は瞼を開けた。
ざ、ざざざざ……と稲穂の間を風が通り抜けていく音がする。まるで海原のように黄金色の稲穂がうねり、風の通り道が可視化される。しかし、雪嗣が求めている声はどこからも聞こえない。どうやら幻聴だったようだ。
「……俺は馬鹿か」
雪嗣は吐き捨てるように言うと、小さく苦い笑みを零した。
トクトクと心臓が高鳴っている。雪嗣はそんな自分の反応を忌々しく思いながら、再びゆっくりと瞼を伏せた。
また強い風が吹く。夏に比べると随分と身軽なその風は、雪嗣の白い髪も、袴の裾も、髪に結わえられた赤い布をも巻き上げて、気まぐれにどこかへ行ってしまった。
――ああ、稲穂が。風が。あの頃と変わらない音がする。
雪嗣は脳裏に浮かんだ光景を振り払うように首を振ると、悲鳴を上げている胸を手で押さえ――反対の手で髪を結わえていた布を外した。
「……お前がいなくなって、もう何度目の秋だろうか」
陽光よりも透き通った白い髪が、束の間の自由を得て風の中で躍る。
雪嗣はその布をじっと見つめると、まるで口づけをするように唇で触れた。
「俺は、いつまで待てばいい……?」
龍神が零した言葉は、あっという間に風に流されて消えてしまう。
黄金色に染まった景色の中で、血のように鮮やかな赤を持つその布は、まるで己の存在を主張するかのようにひらり、ひらりと風に靡いていた。
その瞬間、懐かしい声が聞こえた気がして、雪嗣は瞼を開けた。
ざ、ざざざざ……と稲穂の間を風が通り抜けていく音がする。まるで海原のように黄金色の稲穂がうねり、風の通り道が可視化される。しかし、雪嗣が求めている声はどこからも聞こえない。どうやら幻聴だったようだ。
「……俺は馬鹿か」
雪嗣は吐き捨てるように言うと、小さく苦い笑みを零した。
トクトクと心臓が高鳴っている。雪嗣はそんな自分の反応を忌々しく思いながら、再びゆっくりと瞼を伏せた。
また強い風が吹く。夏に比べると随分と身軽なその風は、雪嗣の白い髪も、袴の裾も、髪に結わえられた赤い布をも巻き上げて、気まぐれにどこかへ行ってしまった。
――ああ、稲穂が。風が。あの頃と変わらない音がする。
雪嗣は脳裏に浮かんだ光景を振り払うように首を振ると、悲鳴を上げている胸を手で押さえ――反対の手で髪を結わえていた布を外した。
「……お前がいなくなって、もう何度目の秋だろうか」
陽光よりも透き通った白い髪が、束の間の自由を得て風の中で躍る。
雪嗣はその布をじっと見つめると、まるで口づけをするように唇で触れた。
「俺は、いつまで待てばいい……?」
龍神が零した言葉は、あっという間に風に流されて消えてしまう。
黄金色に染まった景色の中で、血のように鮮やかな赤を持つその布は、まるで己の存在を主張するかのようにひらり、ひらりと風に靡いていた。