料理上手で、愛嬌がある。祖母の幸恵との関係も上々で、村人とも上手くやっているようだ。過疎化が進むこの村でも、問題なく仕事を続けている。なにより彼女は、蒼空と同じく雪嗣の幼馴染み。気心が知れているし――時折見せる無邪気な笑顔は、可愛いとも思う。

「きっと、叶海を嫁に貰ったら、笑いの絶えない家庭になるのだろうな」

 叶海が聞いたら喜びのあまり卒倒しそうなことを呟きつつも、雪嗣の表情は浮かない。

 ふと空を見上げれば、そこには綺麗なうろこ雲が広がっていた。

 空は昔と変わらぬ姿を見せてくれるが、地上へと視線を移すと、主を失った家々が視界に飛び込んでくる。雪嗣はおもむろに瞼を伏せると、遠い日に想いを馳せた。

 雪嗣がこの村にやって来てから、既に数百年の時が流れた。

 巡り来る季節ごとに、村の風景は徐々に変わっていった。

 この村のことを、雪嗣はなんでも知っている。貧しかった時も、豊かだった時も、嬉しいことも、哀しいことも。そこに生きた者も、去って行った者も――。

 神である雪嗣は、すべての出来事を鮮明に思い出せる。