少しだけ平静を取り戻した叶海は、改めて雪嗣に視線を向ける。

 すると、雪嗣の額におかしなものがあるのに気が付いた。

 そこにあったのは、先ほどの龍が持っていたものと同じ角だ。
 雪嗣は叶海の視線の行方に気が付くと、少し困ったように眉を下げた。
 そして――まるで、なんでもないことのようにこう言ったのだ。

「バレてしまったか。俺は人間じゃない。この地で祀られている龍神なんだ」

 そう言って、ゆっくりと叶海へ向かって歩き出した。
 当時の面影を残したまま、けれど想像していた以上に美形に進化した幼馴染み。

 しかも神様だというから驚きだ。叶海の脳内は一気に混乱に陥る。

 ――なにがどうなってるの……!

 あまりのことに思考が停止する。
 すると、叶海が次に気が付いた時には、雪嗣が目の前に立っていた。

「……あ……」

 小さく声を漏らした叶海は、雪嗣を呆然と見上げる。
 そしてこの時、ようやく自分の目的を思い出した。

 ――そうだ。私は雪嗣に自分の気持ちを伝えにきたのだ。初恋を忘れるために。

「……忘れる……?」

 瞬間、とてつもない違和感に見舞われて顔を顰める。

 すると、そんな叶海を見ていた雪嗣は瞳を僅かに細め、叶海に手を伸ばす。
そして、髪に着いていた桜の花びらを指で摘まむと、静かな口調で言った。