あまりの反応の薄さに不安になった叶海は、おもむろに起き上がった。そして、まるで言い訳のように早口で言葉を並べる。

「ほら。万が一……私が雪嗣と結婚できなくてもさ。その時は気まずく思うかも知れないけど、爺と婆になったらどうでもよくない?」

「爺と」

「婆……」

 ようやく反応を見せたふたりに、叶海は安堵しつつも話を続けた。

「お互いに年を取って、シワッシワになって。お煎餅を囓りながら、あの頃は若かった! 結婚すればよかった、いやいや……なんて、私たちなら話せると思うんだ。なんか、そんな感じがしてるんだよね。だって、私たちだよ? 青春の日々を過ごした仲間だよ! きっとこの先も一緒にいられる……って、聞いてんの?」

 すると叶海は、俯いて笑い始めたふたりをじとりと睨みつけた。

「こっちは真剣に話してるのに! まったくもう」

 そして不機嫌そうに頬を膨らませた叶海に、蒼空と雪嗣はやっと顔を向けた。そして、息も絶え絶えにこう言ったのだ。

「……ヒヒヒッ! なんだそれ。まったく叶海は叶海だな。ああ、真剣に悩んでた俺らが馬鹿みてえ……」

「ククク……。ホント、叶海は……。大人になっても困ったものだな」

「私の名前を大変なことの代名詞みたいに言わないで!?」

 思わず叶海が抗議すると、ふたりは叶海の頭をポンポン叩いて謝った。

「わりい、わりい!」

「そうだな、言い方が悪かった」

「ちょっ……! 頭がボサボサになるでしょ!? なに、急になんなの。やめてぇ!」

 雨のように降り注ぐ男たちの手に、叶海は訳も分からず涙目になっている。
「さあなあ」

「幼馴染みだろ。読み取れ」

 するとふたりは顔を見合わせると、叶海にとってはよく分からないことを言って、また大笑いをしたのだった。