「…………い、いや。待て。待って欲しい」

 すると蒼空の言葉を雪嗣が遮った。彼は強ばった顔をしてなにか考え込んでいる。

 その表情を見て、おや、と蒼空は片眉を上げた。どうやら雪嗣は、ここで完全に関係を拒絶するほどには、叶海を嫌ってはいないらしい。

「時間をくれないか。時間が欲しい」

 ――神様の癖に。迷子になった子どもみたいな顔をしやがる。

 蒼空はくつりと笑うと、もう一度、眠っている叶海へと視線を向けた。

「う~ん……」

 ムニャ、と寝言を零した叶海は、幸せそうに緩んだ顔を晒している。

 好きなものでも食べているのかもしれない。眠っているはずなのに、モゴモゴ口が動いている様は笑いを誘う。

 ――能天気な奴。

 自分が置かれた状況も理解せず、のんきに眠りこけている幼馴染みの紅一点。

 ――ああ。まったくコイツは。本当に変わらない……。

 すると、悩み続けている雪嗣に、蒼空はわざと戯けたように肩を竦めて言った。

「ま、すぐに結論は出さなくていいんじゃねえの。気になるなら相談に乗るぜ。俺は龍神の世話人だが、お前の友でもあるからな」

 敢えて逃げ道を作った物言いをすると、雪嗣はホッと肩の力を抜いた。
 わかりやすいな、と蒼空が内心面白く思っていると、雪嗣は白い肌をほんのりと染めて、信頼しきった眼差しで蒼空を見つめた。

「ありがとう。お前にはいつも助けられてばかりだ。頼りにしている」

 すると蒼空は、一瞬ポカンと雪嗣を見つめていたかと思うと、口もとを手で隠して視線を逸らした。

「なんだ、改めて言われると照れくせえな。そっか。……うん、変なこと言い出して悪かったな!」

 そして蒼空は、日に焼けた顔を太陽みたいに輝かせると、雪嗣の背中をやや乱暴に叩いたのだった。