叶海の気持ちも大切にしたい。
 しかし――雪嗣の事情も知っている蒼空としてはもどかしい。そうなると、恋心が煩わしいものに思えるから、人とは自分勝手なものだと思う。

「ああ、人生ってままならねえな」

 蒼空はひそりと眉を顰め、思い切り煙草を吸った。

 ――誰も、大人になんかなりたくてなったわけじゃねえのに。ちくしょう。

 蒼空は内心で悪態をつくと、ふうと紫煙を吐き出しながら言った。

「なあ雪嗣。お前はどうしたい」

 すると、雪嗣は薄茶色の瞳で蒼空をじっと見つめた。

 焚き火の炎が映り込み、黄金色に輝いて見えるそれは、人知を超えた神の瞳だ。

 しかしその瞳は、今は人と同じように不安そうに揺れている。

「話せ。お前が望むなら――俺が、叶海に諦めさせる」