時が止まったかのようにその人物を見つめていた叶海だったが、ハッと正気を取り戻した。そして、荒ぶる心臓を宥め、乾いた口内を懸命に湿らせて訊ねる。

「ゆき、つぐ……なの……?」

 ――そう。その人物の顔には見覚えがあった。

 それはまさしく、かつて長い時間を一緒に過ごした幼馴染みの顔だ。

 あの頃よりも成長しているものの、ありありと当時の面影が見て取れる。
 髪の色は白くなっていたし、成人男性らしい体型になり、伸長は叶海よりも随分と高くはなっていたが、当時の少年らしいしなやかさは失われていない。

 すると、その人物はあからさまに表情を曇らせた。

 そして、おもむろに襟足を結ぶ赤い布に指で触れた。まるで神主のような白衣に、指貫と呼ばれる白い袴を着ているせいか、布の赤色だけがやけに鮮烈な印象を与える。

 すると、その人は叶海が想像していたよりも低い声で答えた。

「そうだ。久しぶりだな、叶海」

「…………!」

 その瞬間、カッと叶海の身体が熱くなった。

 初恋の相手がそこにいる。その人が自分の名を呼んだ。
ただそれだけだと言うのに、身体が火照り、震えが止まらない。鼓動が早くなって、落ち着きがなくなる。まるで、彼に恋をした頃に戻ってしまったようだ。

 自分になにが起きているのかわからずに困惑する。

 まさかこれも「初恋の呪い」の効果なのだろうか――?

 そんな間の抜けたことを思っていると、ふわりと春風が叶海の肌を撫でて行った。