「お前、あの頃、叶海のことが好きだっただろう」

「なっ……! ば、ばっか! なに言ってんだ」

「バレバレだったよ。むしろ、あれで隠しているつもりだったのか……?」

 心底不思議そうに首を傾げた雪嗣に、蒼空は動揺を誤魔化すようにビールを呷った。

 そして空になった缶を手で潰すと、弱りきったように眉を下げた。

「確かに、あの頃はコイツのことが好きだったけどよ。俺は昔よりも大人になったし、いろんなもんを見て、知った。酒もやるし、煙草も嗜む。女とも付き合ったことがあるし。……あの頃のままの気持ちじゃいられねえよ」

 そしてだからこそ叶海はすごいのだ、と蒼空は語った。

「初恋を今日この日まで温めて、その気持ちをまっすぐぶつけてる。普通じゃできねえことだと思うぜ? それだけ雪嗣のことが好きなんだ。本気なんだよ」

「…………」

 しかし蒼空の熱弁に、雪嗣は黙ったままだ。

 ――なにを考えてるんだか。

 長い付き合いといえど、神である雪嗣の考えがすべてわかるわけではない。
 黙り込んでしまった雪嗣に、蒼空はちろりと意地の悪そうな目を向けて言った。

「しかし意外だった。雪嗣が叶海の求婚を断るとはなあ。お前にとって叶海は、特別な存在なんだと思っていたからなおさらだ」

「……どうしてそう思うんだ」

「だってお前、これまでだって若い姿の時はあったと聞くが、叶海みたいなただの(・・・)友だちを作ったことはなかったそうじゃねえか。確かに、あの頃の村に子どもは俺たちしかいなかった。でも、お前は神で叶海は人間だ。お前がいつもそう言って叶海の求婚を断るように、同じじゃねえよ(・・・・・・・)。普通に考えたら、深く関わるべきじゃない」

 叶海と雪嗣の出会い。それは、別に誰かが引き合わせたわけではない。

 ひとりポツンと遊んでいた叶海に、突然、雪嗣から声をかけたのだ。