思わず蒼空が顔を顰めていると、雪嗣はため息と共に言った。

「それと俺が叶海を受け入れるかは別の話だろう?」

「強情だな」

「言ってろ」

 雪嗣のあまりにも見事な仏頂面に、蒼空は顔を背けて笑っている。それが気にくわないのか、雪嗣はじとりと蒼空を睨みつけると言った。

「そう言うんだったら、お前が貰ってやればいいじゃないか」

「お、時代錯誤なことを言うなあ。叶海は物じゃねえし。自由恋愛が主流な今じゃ問題だぜ。それ」

「……だったら早く結婚すればいい。お前の親父さん、いつまで経っても孫の『ま』の字も見れやしないと嘆いていたぞ」

「うわ、親父。なに言ってんだ……」

 実父の行動に頭を抱えた蒼空は、頬杖をついてため息を零した。

「今じゃ寺の跡継ぎの嫁なんて、なり手がいねえんだよ。朝は早いし、付き合いは多いし、一年中行事ばっかりで面倒だらけだ」

「その点、叶海は卒なくこなしそうなものだがな。愛想の良さは折り紙付きだ。唐突に突拍子もないことをしなければ、の話だが……」

「ワハハ! 確かに。コイツ、なんだかんだ芸術家肌なんだよな。インスピレーションを得たら、変だろうがおかしかろうが脇目も振らずに突き進むんだ。普段は犬コロみたいに無邪気なくせに、スイッチが入ると目の色が変わる。おもしれえよなあ」

 蒼空は気持ち良さそうに眠る叶海を眺めると、少し呆れたように言った。

「ほんと抜けてるよなコイツ。好きな相手を落としたいなら、ビキニくらい着ればいいものを。ラッシュガードって。どこで勝負してるんだ、どこで」

 そして煙草をひとくち吸うと、紫煙をくゆらせながら、どこか懐かしそうに言った。

「これっぽっちも色気がねえ。……相変わらず、叶海は叶海のままだ」