雪嗣は焚き火の炎を見つめながら、ビールをひとくち飲んだ。すっかり温くなってしまったらしいそれに、僅かに顔を顰めて缶から口を離す。すると、すかさず蒼空が冷えたビールを差し出した。

「別に供物じゃねえし、大事に飲む必要はないと思うぜ?」

「なにを言う。作ってくれた相手に申し訳が立たないだろう」

 雪嗣は一気に缶の中身を飲み干すと、新しいビールを受け取った。蒼空は、煙草を咥えながら、クツクツと喉の奥で笑っている。

「相変わらず、人にお優しいこって」

「それが俺という神だからな」

 ふたりは視線を交わすと、小さく笑った。

 蒼空は仏門に入った僧侶だ。しかし、地元の権力者である父に言われて、年老いた身体から幼い身体に戻ってしまった雪嗣の面倒を見てきた。

 人の世に住み続けている神。神の世話をするために選ばれた子ども。

 それが雪嗣と蒼空の関係だ。普通ならば蒼空が畏まった態度をしそうなものだが、それは雪嗣が許さなかった。友人のように、隣人のように。初めて会った瞬間にそう言いつけられた蒼空は、それ以来、気の置けない友人のように接している。