「あ、蒼空はどうする? どれを飲む?」

「俺は愛車で来たからパスな、パス」

「え、車で来たんだっけ」

「いや、カブ。スーパーカブちゃん」

 蒼空の言っているスーパーカブとは、ホンダが出している小型オートバイのことだ。世界最多量産の車種で、今もなお強い人気がある。その人気は、映画や小説の題材に度々取り上げられるほどだ。

 彼はスーパーカブを心から愛している。更に、悪路が多い田舎ではカブは大変便利らしい。黒衣に袈裟の坊主姿のまま、ヘルメットとゴーグルを着用して、遠方の法事にもカブで赴くそうで、なんともアクティブな坊主である。

「そっか~。それは仕方ないね。でも……」

 叶海はしょんぼりと肩を落とすと、またゴソゴソとクーラーボックスの中を漁り始めた。そして次々とあるものを取り出し、キャンプ用の簡易テーブルに並べていく。

「大人たちが川辺で美味しそうにお酒飲んでるの、昔からちょっと憧れててさ。今日の晩ご飯、お酒に合う感じのメニューにしちゃったんだよね~」