辺りには水の匂いが満ちている。土の匂いとも草の匂いとも違う、胸がすくような匂いだ。鼓膜を激しく震わせているのは川の流れ。低く、絶え間ないその音は心地よく耳に響き、その場にいる者の心を柔らかく解してくれる。

 ここは龍沖村の中央を流れる川の傍だ。削られて丸くなった石が一面に敷き詰められた河川敷には、幾人もの家族連れが避暑に訪れている。

 夏の終わり。先祖の霊が戻ってくる頃になると、普段は静かな龍沖村も賑やかになる。何故ならば、都会へ出て行った子が孫を連れて帰郷するからだ。

 しかし娯楽などまるでないこの村では、子どもたちは暇を持て余し気味だった。すると大人たちはバーベキューの準備をして、川辺へと繰り出すのだ。

 穏やかな流れが続くこの場所は川遊びに打って付けで、近隣の村々からも大勢が集まってくる。盆の墓参り以外では、夏の間、一番人口密度が高い場所であると言えるかもしれない。

 今日も今日とて、太陽は燦々と大地を照らしている。

 子どもたちは喜び勇んで川に飛び込み、水音と共にはしゃいだ声を上げた。
ビールを片手に保護者たちが寛ぎ、飲み過ぎた大人が早々にいびきをかき始めた頃。

 誰もが楽しげな雰囲気の中、約一名、仏頂面で座り込んでいる人物がいた。