叶海の言葉には、どこか切なさが滲んでいた。

 耳の奥には、両親たちの喧嘩の声が蘇っている。もしかしたら、来年はここにいないかもしれない。そんな予感が叶海の胸いっぱいに満ちていて、思わずそんな願いをしてしまったのだ。

「そうだな」

 すると、雪嗣は叶海の手を握り返した。そして、顔だけを叶海に向けて言った。

「叶えばいいな」

「……う、ん」

 泣きそうになってしまった叶海は、言葉少なく頷いた。すると、蒼空も叶海の手を握る。雪嗣とは違い、少し痛いくらいだ。

「よし、次の流れ星には、俺もそれを願うぜ」

「…………! ありがとう。蒼空」

 叶海が笑みを向けると、蒼空は日焼けした顔をほんのり染めて無邪気に笑った。

 そして改めて星空を眺める。聞こえてくるのは、虫の鳴く声、木々のざわめきだけ。

 この三人にしては珍しく静かな時間が流れたが、それはすぐさま雪嗣の声によって破られた。

「……二個目」

「あ、え!? 雪嗣、どこ!」

「俺も二個目~」

「ああ、蒼空まで! ずるい!」

 途端にいつもみたいに騒ぎ始めた三人は、徐々に数を増していく流星に夢中になった。その後、夜遅くまで流星を数えていた叶海たちは、たくさんの願いを星に託して、幼馴染みだけの時間を過ごしたのだった。



 結局、彼らの幼馴染みとしての時間は、その後それほど長くは続かなかった。

 三人は、叶海が村を出て行く春の日まで、過ぎ去りゆく青春の日々を懸命に過ごした。それは当たり前のようで、尊く、二度と経験できない貴重な時間。

 その時間は、十年経った今もなお、彼らの心の中に深く刻まれている。