それは、大きくとぐろを巻いて、木漏れ日の中で微睡んでいた。

 全身を包む純白の鱗が、春の日差しを喜ぶかのように、きらりきらりと輝く。

 まるで鱷のように長い鼻。艶やかな白い髭。頭部からは二本の角が生えている――。

 境内にいたのは、穢れひとつない純白の身体を持った異形。大きな桜の木の下に横たわるその身体の上に、鮮やかな桜色の欠片がはらはらと降り注いでいる。

 あまりにも異様な光景に、呼吸をするのも忘れて見つめる。
 そして、異形の姿に見覚えがあった叶海は、思わずぽつりと呟いた。

「……龍……?」

 するとその瞬間、ぱちりと金の双眸が開いた。

 それは叶海の頭ほどある巨大な瞳だ。蛇にも似た人とは違う縦長の瞳孔に、叶海はようやく恐怖という感情を思い出した。全身から汗が噴き出し、足が震える。逃げようにも、まるで足の裏が地面にくっついてしまったように動かない。

 その瞬間、龍が目をぐう、と細めた。途端に強風が吹き荒れ、桜の花びらを巻き込んで叶海に襲いかかる。

「……んっ!」

 あまりの風の強さに息をするのも難しい。

 腕で顔を庇って、ひたすら風が通り過ぎるのを待つ。唸るような風の音が収まると、しん、と辺りが静まりかえった。叶海が恐る恐る目を開けると、先ほどまでは圧倒的な存在感を放っていた龍の姿は消えてしまっている。

 その代わりに、境内の中央にひとりの人物が立っていた。