それは、空一面に輝く星空が、都会では見られないと叶海が知る前のことだ。

 街灯が少ない田舎道には、星明かりを遮るものはあまりない。闇夜に塗りつぶされた木々や家々の向こうには、無限の星の海が広がっている。

 それは叶海にとってあまりにも日常で、虫の鳴き声を子守歌代わりに眠ったし、夜中に聞こえる土鳩の声に怯えたりもした。龍沖村は田舎だったが、年頃の女の子にしては、都会にさほど憧れを抱いていなかった叶海にとってはいい場所だ。

 なにより、ここには大好きな彼らがいる。

 小学六年の夏休み、叶海は夜中に家を抜け出した。リュックには、ジュースが入った水筒に、食べるのを我慢してとっておいたおやつ。念のための懐中電灯。

 それらの荷物は昼間から用意してあったものだが、本来ならば両親が寝静まった後に出発する予定だった。けれど、両親はお互いを罵るのに夢中で、叶海のことなんてこれっぽっちも気が付いていなさそうだったので、時間を早めて家を出たのだ。

「私がいないって気が付いて、慌てればいい」

 慌てふためく両親の姿を想像して、叶海は目尻に滲んだ涙を拭った。