「だから叶海」

 雪嗣はひとつ息を吐くと、叶海をじっと見つめた。

「人は脆く、すぐに死ぬ。ここは危険だ。だから……お前を嫁には――」

 愁いを帯びた表情を浮かべた雪嗣は、言葉を選びながら話している。しかしそれらの言葉は、なにひとつとして叶海の耳へ届いていなかった。

「でき……って、うわっ」

 話の途中にも拘わらず、叶海は雪嗣へ抱きついた。

 驚きのあまりに抵抗が出来ずにいる雪嗣へ、興奮気味に言う。

「雪嗣って本当にすごいね……!」

「は?」

「雪嗣は悪いものから、人を守っていたんだ。神様ってすごい……!」

 叶海は雪嗣から身体を離すと、まるで憧れのヒーローを見る子どものように、キラキラした眼差しを向けている。

「私、龍沖村はすごく素敵なところだと思う。自然がいっぱいで静かで穏やかで……都会みたいな薄汚れた感じがなくて」

 だからこそ、過疎化が進みつつある状況は哀しい。この光景が、雪嗣が少しずつ作り上げてきたものであればなおさらだ。できるだけ続いて欲しいと心から想う。

「この村の綺麗なところ、優しいところ、全部、全部……雪嗣が身体を張って守ってきたんだね」

 叶海は、龍沖村の人たちが雪嗣を慕う意味が、心の底から理解できたような気がして嬉しくなった。そして胸に手を当てると、雪嗣を真摯に見つめた。

「そ、そうか」

 己が為してきた仕事を褒められて、雪嗣はまんざらでもないらしい。ほんのり頬を染めた彼は、動揺したのかすいと叶海から視線を外す。すると、うっとりと頬を染めた叶海がすかさず言った。

「……ああ、雪嗣が好きな理由をまたひとつ見つけた感じがする! 流石、私の未来の旦那様。惚れ惚れしちゃうね……」