「――お、終わった……?」

 ずっと気を張り詰めていたせいか、身体に力が入らない。その場にヘナヘナと座り込んだ叶海に、雪嗣はどこか安堵したように言った。

「もう大丈夫だ。怪我はないか?」

 叶海がこくりと頷くと、雪嗣は叶海の正面にしゃがみ込んだ。そして、どこか諭すような口調で話し始めた。

「――これが俺の仕事だ。命懸けで、当たり前のように危険が伴う」

 そして雪嗣は、自分がなすべき仕事を語り始めた。

 それは、龍沖村の中を流れる川をコントロールすること。

 村人たちを見守り、必要があれば手助けをすること。そして――。

「この地に封ぜられている穢れを祓うことだ」

 元々、雪嗣はこの地へ厄災を祓うためにやってきた。龍沖村は、日本中を血管のように駆け巡っている龍脈の要所に位置し、元々悪いものが集まりやすい場所だ。人々へ厄災をもたらすそれは「穢れ」と呼ばれ、神々によって封ぜられてきた。

「今の獣も穢れのひとつ。この社は、穢れが噴出しやすい場所に建てられた。地下に溜まった穢れは、時を経ると獣の形を取って暴れ出す。それを祓うのが俺の仕事だ」

「この下に……」

 叶海は、雨で濡れた石畳に触れると、濡れそぼった身体を両腕で抱きしめた。

 得体の知れないものがはるか地下で蠢き、地上に住む人を襲おうとチャンスを窺っている……そんな妄想が頭を過ったからだ。