「ギャッ……!」

 その瞬間、ぱっくりと開けられた大蛇の顎に黒い獣が呑み込まれた。

 透明な水の中に閉じ込められた獣は、ジタバタと助けを求めるかのように藻掻くが、水の大蛇が逃すはずもない。ゆったりとした動きでその場にとぐろを巻くと、必死に足掻いている黒い獣を嘲笑うかのように、ちろりちろりと長い舌を伸ばした。

 やがて――黒い獣が力尽きると、それはまるで朝日を浴びた影のように跡形もなく消え去った。同時に、水の大蛇は盛大な水音を立てて形を失う。

 その瞬間、境内に静寂が戻ってきた。

 いつの間にか土砂降りの雨から小雨へと変わっている。

 パタパタと雨の雫が境内を叩く音、葉から水滴が落ちる音だけが辺りに満ちていた。